研究課題
今年度は本研究課題の主目的となるコウモリ類のエコーロケーションの進化的起源の解明にアプローチした.まず, コウモリ類の内耳の硬骨要素である鼓胞の骨化プロセスの比較を行った. 結果として, 超音波能力をもたないオオコウモリ類の骨化プロセスはコウモリ類以外の哺乳類のものと極めて類似していた. 一方で, 超音波を鼻腔から発信するキクガシラコウモリ類では骨化が鼓胞内側からスタートするのに対し, 口腔から発信するヤンゴキロプテラ類では外側からスタートしていた. 続いて内耳の軟骨要素である蝸牛のサイズ成長を比較するために, 頭骨成長に対するアロメトリーを比較したところ, オオコウモリ類と他哺乳類とで傾きに有意差がみられなかった. 一方でキクガシラコウモリ類とヤンゴキロプテラ類とで傾きが有意に異なっていることが判明した. こうした内耳の定性・定量比較によりオオコウモリ類と他哺乳類の発生の類似性, キクガシラコウモリ類とヤンゴキロプテラ類の間の発生学的差異が検出された点を受け, 他の超音波関連器官である鼓室輪と茎状舌骨に着眼した. 一般にこの2つの骨要素は超音波発信を行うコウモリ類で癒合あるいは接触している. オオコウモリ類と他哺乳類間で鼓室輪・舌骨形成を比較したところ方向性に質的差異は見られなかった. 一方でキクガシラコウモリ類とヤンゴキロプテラ類間で比較したところ, 茎状舌骨の骨化の開始位置、および形成方向が異なっていた.したがって, オオコウモリ類と他哺乳類の発生の類似性, ヤンゴキロプテラ類とキクガシラコウモリ類の発生の定量的・定性的差異から, 超音波発信能力はオオコウモリ類で失われたのではなく, キクガシラコウモリ類とヤンゴキロプテラ類とで独立に進化した可能性が高いことが示唆された.
1: 当初の計画以上に進展している
今年度でコウモリ類のエコーロケーションの進化的起源について有力な発生学的証拠が得られた. 本結果および議論は既に国際誌へ投稿・掲載されており, 当初3年間かかると思われていたデータ取得・解析を今年度でおおよそ終えることができた.こうした理由から当初予定していたペースよりも極めて順調に計画が進行しているといえる.
最終年度である2021年は, これまで着眼してこなかった喉頭の形成プロセスを主軸に置き, 超音波発信能力の異なる系統間でどのような発生学的差異がみられるのか検討を行うことを予定している.加えて, 内耳の蝸牛と聴覚野とを結びつける蝸牛神経に着目し, 神経支配の差異が超音波発信能力の差異とどのように結びつくのか検討することも視野に入れている.
すべて 2021 2020
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 4件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (2件)
Frontiers in Cell and Developmental Biology
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