研究実績の概要 |
前年度に引き続き、視覚的印付けにおける抑制テンプレートの性質について検討した。視覚的印付けとは、刺激が2段階呈示される分割呈示探索課題において、1段階目に呈示された妨害刺激(先行刺激)を抑制し、標的を含む追加される刺激(後続刺激)に対して効率的探索を行う現象である(Watson & Humphreys, 1997)。生起メカニズムは、先行刺激に対する抑制テンプレートの形成と考えられている。今年度は前年度の先行画面中に内発的空間手がかり(矢印)を呈示する場合の結果の再検討から行った。前年度は内発的手がかりの効果(手がかり方向へ注意を向ける)と抑制テンプレートの効果(先行刺激への抑制)の共存すると解釈したが、再検討を経て、2つの効果は同時作用せずに、一方のみが作用するという選択制を示唆した。これは、注意資源が有限のため、抑制テンプレートと標的探索に関する他のトップダウン事象の両方に注意資源を向けることができないためと考えられる。一方で、外発的空間手がかり(光点の短時間呈示)を呈示する実験も行った。その結果、抑制テンプレートと外発的手がかりによる注意捕捉効果の2つが同時作用することが示された。先行研究ではボトムアップな注意捕捉を引き起こす外的事象は抑制テンプレートを阻害してきたが、本研究では抑制テンプレートが維持された。これは、外発的空間手がかりが標的探索に直接的に寄与する現象であるためと考えられる。 また、視覚的印付けの現実場面への拡張として、個人差に着目した研究も行った。小林・大久保(2014)が考案した日本語版OSPANを用いて、視覚に限局しない作業容量が、視覚的印付けの生起に対応しているかを検討した。しかし、作業容量と視覚的印付けの生起能力の間に強い相関はみられなかった。つまり、視覚に限局しない作業容量は無関係な先行刺激を抑制することとの関連性が薄いことが示唆された。
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