研究課題/領域番号 |
19J20619
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
矢野 更紗 筑波大学, 生命環境科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | 微小核 / ミクログリア / 神経細胞 / 情報伝播 / 脳発生 |
研究実績の概要 |
脳の正常な機能には、緻密な神経回路の構築が重要である。脳の発達過程では、免疫担当細胞であるミクログリアが貪食やシナプスの刈り込みなどの機能を担い、正常な神経回路の構築に貢献する。ミクログリアの機能は環境に応じて迅速に変化し、ミクログリアの遺伝子発現が脳の領域や発達時期ごとに異なることが知られている。しかしながら、脳の発達過程特異的なミクログリアの機能変化の分子機構は明らかになっていない。本研究課題では、ミクログリアの機能を制御する新規メディエーターの探索を目的とした。これまでに、大脳皮質の神経細胞が移動する過程に生じる物理的なストレスが微小核形成を引き起こし、微小核が大脳皮質第1層で神経細胞から放出されることを明らかにした。微小核とは核膜とDNAを有する直径1~2 µm程度の核様構造体である。ミクログリアは神経由来微小核を取り込み、自然免疫応答経路であるcGAS-STING経路を誘導した。微小核を有するミクログリアは突起が退縮した形態を示したが、cGAS欠損マウスでは微小核による形態変化が抑制された。以上の結果から、神経由来微小核は、脳発達初期のミクログリアの機能を制御する新規メディエーターであることが示唆された。2021年度は神経細胞から放出される微小核の構造と遺伝子の解析、ミクログリアによる微小核の取り込み経路の特定を行い、これまでの研究成果を論文として発表する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度は、組織切片や細胞の染色画像から微小核陽性細胞を機械的に定量することを目的として、プログラミングソフトMATLABを用いた3次元画像から微小核を自動的に定量するツールCAMDiの開発を行った。細胞マーカー、核マーカーでそれぞれ染色したzスタック画像をインプットした後、指定した輝度の域値や核の直径を元に、細胞内に存在する大核と微小核の数を自動で出力するツールを作成することが出来た(Yano et al. 投稿中)。 微小核の脳内での新規形成機構を明らかにするため、分裂を終えた神経細胞が細胞間隙を移動する際に生じる物理的なストレスに着目し、in vitro、in vivoで検証し、CAMDiで解析を行った。その結果、核の一部が伸長し、搾取されて、微小核が形成されることを見出した。微小核の細胞内での蓄積はオートファジーの機能低下によっても生じることが報告されているが、大脳皮質の表層からの距離依存的なオートファジー活性の変化がないことが見出された。このことから、微小核が表層に多く見られる要因は表層付近で生じる物理的なストレスによって微小核が形成されることが示唆された。現在、CAMDiを用いた上記の研究成果をもとに、神経細胞―ミクログリア間の微小核伝搬に関する論文をまとめている。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は、微小核の構造を明らかにするために胎児期脳の大脳皮質の微小核に着目し、神経細胞特異的に細胞質をラベルしたマウスの切片を用いて、膜に包まれた構造を有するか検証する。また、微小核に取り込まれた遺伝子を解析するため、生化学的に同定した微小核画分のRNA-Seq解析を行い、微小核に取り込まれた遺伝子の特徴を明らかにする。 また、神経細胞によって放出された微小核がミクログリアに取り込まれる分子経路を明らかにするため、蛍光イメージングを全自動で行うハイスループットスクリーンングによって、微小核の取り込みを阻害する薬剤を特定する。スクリーニングシステムの構築は昨年度までに終えているため、2021年度上旬には解析に取り組む予定である。また、特定した阻害剤が生体内において機能するか検証するため、ミクログリアの微小核の増加が認められている神経特異的オートファジー欠損マウスに投与し、微小核陽性ミクログリア数を定量する。微小核の取り込み経路を生体内で明らかにし、脳の発達における微小核伝播の意義を考察する。これまで、MATLABを用いて三次元画像を基に微小核陽性細胞数を定量するプログラム(CAMDi)を開発し、脳内微小核をより正確に定量することを可能にしてきた(Yano et al. 投稿中)。最終年度となる2021年度は上記の成果をまとめた論文の受理を目指し、微小核伝搬研究のさらなる発展を目指し、脳内微小核伝搬の生理的意義を明らかにしていきたい。
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