本研究の最終目的は,上部三畳系美祢層群の昆虫化石相の解明である.2021年では前年度に引き続き,美祢層群産の昆虫化石の分類学的研究と地質データの収集を行った. 前年度で新たに発見した昆虫化石露頭の堆積層解析を行った結果,昆虫類は主に黒色頁岩で構成される静穏な湖沼堆積相から産出することが分かった.さらに,これまで産出した昆虫化石組成を明らかにするために2つの博物館と4名のコレクターの方々の昆虫化石,3810標本を目レベルで同定を行った.その結果,桃ノ木層の昆虫化石は13目で構成されており,そのうち半数以上がコウチュウ目・ゴキブリ目などの陸生昆虫で構成される一方,湖沼環境に生息するカゲロウ目やカワゲラ目,トンボ目の幼虫などの水生昆虫が非常に少ないことが分かった.このことから,当時の堆積環境は,水生昆虫が生息できないような環境下であり,湖沼周辺からの繰り返しの流れ込みで陸生昆虫類が運搬・堆積した可能性がある.このような陸生昆虫が産出する三畳系の昆虫化石は非常に珍しく,今後,補足的な調査と分析を追加して成果をまとめ,早期に公表する予定である. 一方,美祢層群の昆虫化石のうち,三畳紀に初めて出現したハチ目に注目し分類学的研究に着手した結果,新たにMadygellinae亜科の体化石を含む起源的ハチ類6標本を新たに見つけ出した.これらのうち4標本は2020年に記載報告したMadygella humioiとは別種であることが分かった.さらに,Madygellinae亜科の中でも世界でも初報告となる産卵管まで保存された標本も2標本発見した.特に産卵管は後に毒針へと進化する器官であり,ハチ目の初期進化を考えるうえでカギとなる化石記録である. さらに,今年度は上部白亜系手取層群北谷層から新たに5種のゴキブリ類化石を報告することが出来た.
|