研究課題/領域番号 |
19J20629
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
鈴木 智佳 筑波大学, 生命環境科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | 棘皮動物 / 左右非対称性 / Nodal / 繊毛 |
研究実績の概要 |
本研究は、左右軸決定因子Nodalを用いて体の右と左に差を作り出す仕組みがどのように進化してきたかを議論することを最終目標として、棘皮動物でNodal分子を偏らせる仕組みを解明することを目的としている。採用前に行なった実験により、バフンウニ胚では、正確に左右軸を決定するために、原腸が重要な役割を果たしていることが示唆された。マウス胚で左右軸形成を司るノードと同様に、ウニ胚の原腸にも動繊毛が生えている。このことから、ウニ胚の原腸に生える繊毛が左右軸形成に重要な役割を果たしていると考え、原腸繊毛に着目した実験を行ってきた。 昨年度、繊毛形成に関与する因子を、モルフォリノオリゴを顕微注入してノックダウンしたところ、原腸に生える繊毛が短くなり、その胚では左右軸形成も乱れるという結果を得た。本年度は、この結果をより確かなものにするために、異なった配列のモルフォリノオリゴでも同様の結果が得られるかを精査した。その結果、原腸繊毛の長さが有意に短くなり、左右軸形成も乱れた。2種類のモルフォリノオリゴで同じ結果が得られたので、バフンウニ胚では、原腸に生える繊毛が左右軸決定に重要な要因の1つであると結論付けた。マウスでは、ノード繊毛の生える位置に偏りがある。そこで、繊毛形成因子をノックダウンしたウニ胚で、原腸繊毛の生える位置が変化するのかを観察するために、観察方法の確立に取り組んだ。その結果、繊毛だけを光らせるコンストラクトを用いた観察方法の確立に成功し、現在、正常胚を用いた解析を行なっている。加えて、Nodal分子の移動経路を明らかにしようと、Nodal分子の配列にRFPを付けたmRNAを作成・顕微注入した。しかし、蛍光分子を付けたNodalは、体軸形成因子として正常に機能しなかった。また、本年度は新たに、間充織細胞の足場形成に関与する因子をノックダウンすると、左右軸が乱れることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
原腸繊毛の生え方を解析するためには、原腸の細胞の輪郭と、原腸繊毛の両方を同時に検出する必要がある。ウニ幼生は、体全体に繊毛が生えているため、従来の方法では、原腸内に生える繊毛を鮮明に検出することが困難であった。繊毛だけを光らせるコンストラクトが得られてからも、最適な観察方法を確立するまでに時間がかかった。 蛍光分子でタグ付けしたシグナル伝達分子を用いて、拡散する様子を観察した実験は、遺伝子のノックインが可能な動物では行われている。ウニ胚でも、外来のmRNAを顕微注入することで同様の実験を行えると考え、コンストラクトの配列の検討など、考えられる方法は全て用いて検証をしたが、ポジティブな結果は今のところ得られていない。
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今後の研究の推進方策 |
繊毛形成因子をノックダウンした胚を用いて、原腸繊毛の生え方を解析する。正常胚との比較を行うことで、左右軸形成メカニズムの中で、原腸繊毛が果たす役割に迫ることができると期待する。Nodal分子の移動経路も、新たな方法を用いて検証する。これまで、腹側で発現したNodal分子がどのような経路を通って、距離的に離れた場所にある、原腸までたどり着いているのかが疑問として残っているので、間充織細胞の足場形成に関与する因子が、Nodal分子の移動経路を解明する新たな足掛かりになると考えている。
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