本年度は最終年度となるため、本研究の課題「毛皮獣保護を通した日本の海洋進出とその拡大の解明」については、博士学位論文の執筆をもってとりまとめた。 博士学位論文では、明治期の日本が国際法における領海・公海概念の受容と運用を模索しつつ、一方では海獣保護の国際関係に配慮し、他方では猟業奨励に基づく海洋進出を推し進めていくというダブルスタンダードを確立していく過程を論じた。ここで明らかになったことは、毛皮から得られる金銭的利益を求めて海洋進出する傍ら、国家の利権(漁業権や海洋資源)を守るために海洋防禦するという表裏一体の関係性は、明治期日本にとって海に関する国際法の経験を積む機会にもなったということである。 本年度に実施した研究の取りまとめを踏まえると、本研究における歴史学上の意義は、次の2点に集約される。第1に、従来の日本近現代史で展開されているような大陸中心の歴史とは全く異なる動きをする海洋の歴史の姿である。ここから、陸と海の双方向的な対話をもって日本近現代史を再検討する余地を見出すことができた。第2に、生物保護に関する国際レジームの形成が19世紀末から始まり、日本もこの取り組みに協調していたことである。このことは、海における生物資源保護に関する日本の取り組みを日本近現代史のなかに位置づけることにつながった。 ただし、本研究で明らかになったことは、あくまで明治期に限ったものであることから、日本における海洋の歴史の全容解明には至っていない。海の歴史は現代社会を取り巻く海の問題解決に寄与できることから、今後は本研究で得た知見をもとに、大正・昭和期におけるラッコ・オットセイ猟業/海獣保護の展開や日本における海洋進出の過程を考察していく必要がある。
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