研究課題
本研究課題では,ヘリカルプラズマの放射崩壊現象に着目し,機械学習による崩壊の発生予知及びスパースモデリングによる現象の特徴の抽出を目指している.本年度はまず,大型ヘリカル装置(LHD)における過去の実験データを元にサポートベクターマシン(SVM)を用いた放射崩壊予知モデルを作成した.ここで用いたのは,強磁場条件での重水素プラズマ実験のデータである.さらに全状態探索によるスパースモデリングを導入して予知に重要なパラメータを抽出し,これを用いて性能の高い予知モデルを作成した.この結果に基づいてLHDにおける実験を提案・実施し,低磁場・強磁場のそれぞれにおける水素・重水素プラズマ実験データを取得し,データセットを拡充して改めて全状態探索を実施した.その結果,電子温度と低価数不純物のパラメータが重要であると抽出された.特に,崩壊の直前にはプラズマ周辺の低温領域が拡大する様子が観測され,放射崩壊の物理的背景の理解に資する知見を得られた.さらに,これらの抽出パラメータを踏まえて改良された予知モデルによって,放射崩壊発生予知の精度を向上した.また,核融合プラズマの崩壊現象に共通する物理背景の理解を深めるため,トカマクプラズマにおけるディスラプション現象についてもスパースモデリングを用いた解析を進めている.本年度はこれまで行ってきたトカマク型装置JT-60Uにおける高ベータディスラプション現象の解析をすすめ,国際学会での発表を行った.また新たに,日米科学技術協力事業によって,米国にあるトカマク型装置DIII-Dにおけるディスラプション現象を解析する国際共同研究にも着手した.簡易な機械学習を用いた全状態探索による特徴抽出の結果,抽出されたパラメータのうち電子温度に関するものがJT-60Uにおけるディスラプション現象と共通していることが確認された.
2: おおむね順調に進展している
本年度は,LHDにおける過去の実験データに基づいた放射崩壊予知モデルを作成し,全状態探索による放射崩壊の特徴抽出を実施した.また,データセットの拡大を目的としてLHDにおける実験を提案・実施した.さらに当初の予定よりも進んで,そのデータを取り入れた予知モデルの作成と特徴抽出を実施し,精度の高い予知モデルの実現及び放射崩壊の物理的背景の考察を行うことができた.また,ディスラプション現象の特徴抽出については,新たに国際共同研究に着手し,DIII-Dの実験データに基づく研究を開始することができた.これは,核融合プラズマの崩壊現象に共通する物理背景の理解を深めるという本研究課題の目的において,大きな進展といえる.
まず,LHDにおけるより広い範囲の実験データを用いて,本年度作成した予知モデルの性能を検証する.これは,抽出された特徴が放電に固有のものではなく,放射崩壊現象において普遍的なものであることの検証という意味もある.検証の結果,予知システムの普遍性が確かめられれば,作成した予知システムをLHDの計測システムと接続して計測データを取得して,リアルタイムに安定性判別が可能なシステムを構築する.実際にLHDにこのシステムを適用してプラズマを安定に制御する実験を行う.さらに, JT-60UやDIII-D,ドイツのヘリカル型実験装置Wendelstein 7-Xといった異なる実験装置の実験データを取得し,作成した予知システムの普遍性を広く検証する.並行して,抽出されたパラメータに基づいて崩壊現象の物理機構について考察し,現象の発生する物理的背景の解明に寄与することを目指す.特に,プラズマ周辺部の計測は困難が伴うことから,3次元輸送シミュレーションの結果を使用して考察を進めることも検討している.
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) (うちオープンアクセス 1件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 4件)
プラズマ・核融合学会誌
巻: 95 ページ: 548-553