代表者の研究の目的は、会計情報が議決権行使をめぐる投資家の意思決定に及ぼす影響や、会計情報を利用した議決権行使が投資先企業の経営行動に与える影響を明らかにすることである。令和3年度においては、同研究課題に関連して以下4点の進展があった。 第1に、機関投資家の情報開示に関する制度導入の影響について行った研究が『経営財務研究』誌に掲載されたことである。本研究では、日本版スチュワードシップ・コードで導入された個別開示制度(機関投資家の議決権行使結果について企業毎・議案毎に開示を要請したもの)が機関投資家の投票判断に係る利益相反の問題を緩和したことを示唆する証拠を得ている。 第2に、取締役選任議案の議決権行使結果に関する共著論文が、雑誌『會計』に掲載されたことである。本研究では、日本企業の取締役選任に関する会社提案の決議結果についてデータベースを作成し、議決権行使・株主提案の実態や取締役の在任に対する影響を調査している。 第3に、会計情報の質が株主の議決権行使に与える影響についての研究が進展したことである。本研究では、会計利益と取締役選任議案の賛成率の間には正の相関がある反面、利益の質が低い場合にはそうした正の関係が弱まることを示唆する分析結果を得ている。本研究の内容は一橋大学ファイナンス研究センターのワーキングペーパーとして公開し、また学術誌の査読プロセス中にある。 第4に、議題毎の議決権行使結果と会計利益の関係性について分析を行ったことである。本研究では、不完備契約理論を援用し、議決権行使において会計利益の果たす役割が議題(事前の契約)によって異なることを明らかにしている。具体的には、役員の賞罰に関する議案(役員報酬、取締役の選任)と剰余金の処分に関する議案において、会計利益の用いられる文脈が異なることを示唆する結果を得ている。
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