研究課題/領域番号 |
19J20692
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山谷 里奈 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | 地震波速度構造推定 / 3次元波動計算 |
研究実績の概要 |
1. 海底と同様に表面が厚い堆積層で覆われており地形も複雑な箱根火山に対して有限要素法を用いて地震波形計算を行った。表面に地震波速度が十分遅い堆積層・その下に比較的地震波速度の速い層が存在すると仮定した結果、地形の複雑さが地震波形に影響することを確認し、地形の効果を厳密に取り入れた計算の必要性を示した。 2. 茨城沖領域浅部の構造推定に着手し、堆積層のS波速度構造を得た。茨城沖領域には2010年から2011年にかけて、海底地震計による観測点間距離約6kmの稠密観測網が展開されている。既に構造探査が行われており、詳細なP波速度構造が推定されているが、詳細なS波速度構造は推定されていない。プレート境界などの構造推定を正確に行うためには、観測点近傍の堆積層の影響を正確に評価する必要がある。そこで、まず最浅部の堆積層のS波速度の正確な推定を試みた。表面付近のS波速度構造推定手法の1つに地震波干渉法がある。これは、ノイズ同士の相互相関関数を計算して、観測点間のグリーン関数を得る手法である。震源位置や震源メカニズムの推定誤差や震源近傍の不均質構造の影響を取り除くことができる。この手法を用いて、茨城沖領域にはS波速度が約350m/sと非常に遅い層が最浅部に約500m存在し、その下にS波速度が約1.0km/sの層が約2km存在することを推定した。この2層はどちらも堆積層であると考えられる。また、これより下の層は地殻と考えられる。さらに、このデータに対してトモグラフィを行い、3次元S波速度構造を推定した。その結果、最浅部の堆積層は推定領域の北側と中央部分が厚く、南側は比較的薄いことがわかった。これは、海底面の起伏と概ね調和的であるが、起伏の大きさと比較すると堆積層の変化は小さい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで、茨城沖領域の構造推定に地震波干渉法を用いることで、堆積層のS波速度構造を推定した。本研究では地震波干渉法を短周期海底地震計に対して適用している。陸域の観測網のデータと比較して、海底地震計のデータは解析に困難が伴う。さらに、広帯域地震計と異なり、短周期地震計では使用できる周期帯に限りがある。本研究ではデータを丁寧に解析することで、短周期海底地震計のノイズ域において使用可能な周期の下限まで扱うことを可能とし、堆積層2層の構造推定を可能とした。また、一般に地震波干渉法では表面波の速度のみを推定でき、その表面波速度を元にしてS波速度構造を逆推定する。しかし、このように表面波を用いた構造推定では、S波速度と層の厚さとの間にトレードオフが存在することが示されている。一方、本研究では、通常用いられている表面波の基本モードに加えて1次高次モードの表面波速度を推定し、これを元にしてS波速度構造を逆推定した。この逆推定にMCMC法を用いることで、1. 表面波の基本モードのみを用いたときにはトレードオフが大きく、2. 基本モードに加えて1次高次モードを用いたときにはトレードオフを抑えてS波速度構造を推定できることを示した。さらに、これを用いて3次元のS波速度構造を高精度で推定することに成功した。S波速度構造を推定する他の手法として、PS変換波を用いた構造推定などがあるが、地震波干渉法を用いた速度構造推定はS波への感度が大きく、少ない仮定で構造推定が可能となる点で有意義である。現在、得られた結果を国際誌に投稿する準備を進めている段階である。以上より、研究は期待通りに進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
茨城沖領域においては、構造探査により、プレート境界面までのP波速度構造が既に詳細に推定されている。しかし、S波速度構造は推定されていない。これまで、茨城沖領域の構造推定に地震波干渉法を用いることで、浅部に存在する堆積層のS波速度構造を推定した。まず、推定したS波速度構造を仮定して有限要素法を用いた波動計算を行い、実際の地震波干渉法の結果と比較することで、推定した構造の有用性を確認する。また、ここまでに得られた結果をまとめ、国際誌に投稿する。 次に、堆積層のS波速度をこれまでに得られた構造に固定し、より深部のS波速度構造推定を行う。観測点近傍の堆積層の影響を正確に評価することが可能となるため、プレート境界などのS波速度構造推定を正確に行うことが期待される。S波速度構造推定には、東北地方太平洋沖地震の余震観測波形を用いる。現在使用している茨城沖の観測網の観測期間は2010年から2011年であり、東北地方太平洋沖地震の本震及び余震発生時刻を含んでいる。茨城沖領域ではM7.8の最大余震が観測網の西側で発生しており、その最大余震発生後に、観測網直下及び周辺で数万の余震が観測されている(Nakatani et al., 2018)。本研究ではその数多くの余震観測波形をデータとして用いることで、プレート境界のS波速度構造推定を試みる。速度構造推定には、まずは従来法である走時トモグラフィを用いる。次に、推定したS波速度構造を仮定して有限要素法による波動計算を行い、実際の地震の観測波形と比較することで、推定したS波速度構造の有用性を確かめる。さらに、走時トモグラフィを用いて推定した構造を初期モデルとして波形インバージョンを行うことで、より詳細なS波速度構造を推定する。
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