研究課題/領域番号 |
19J20693
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
津田 勇希 山形大学, 大学院理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | 電気化学 / 物理化学 / 有機無機ハイブリッド |
研究実績の概要 |
有機太陽電池は、一般的なシリコン太陽電池に比べ、軽量・フレキシブルであり、場所を選ばず設置可能であることに加え、より安価に製造可能である為、太陽光発電のさらなる利用拡大が実現できる。しかし、変換効率が低いことが課題である。単一吸収層内で生じた励起子を電荷として取り出す事が可能となれば、電圧損失が少なくなり、さらなる高効率化が望める。我々は、p型無機半導体であるCuSCNを活性種の拡散反応による電解析出で溶液から直接高結晶性な薄膜として得る手法を確立しており、電解浴に有機色素を添加することにより、両者が自己組織的に複合化した複合膜が得られることもまた報告している。そこで、J会合体を形成し、非線形光学特性を発現することが報告されている有機結晶であるDASTとCuSCNとを複合化し、その複合膜内での電荷分離が起こり、単一吸収層型太陽電池への応用を期待できる複合材料の創出を目的としている。 電気化学的に自己組織化したCuSCN/有機色素複合膜が光を吸収し、その複合膜内で電荷分離をし、電荷分離の際に電圧損失が生じない、単一光吸収層型高効率太陽電池を実現する為に、CuSCN/有機色素複合膜の自由自在な作り分けが必要不可欠となる。そこで今年度はCuSCN/有機色素複合膜の複合化メカニズム・色素導入モデルを確立し、成膜のコントロール手法を確立することを目的とした。その暁には、最も吸収層内での電荷分離が期待できる、最大色素導入を達成した複合膜を単一光吸収層とする太陽電池の作製に取り組むことが可能となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CuSCN原料、DAST濃度、回転電極回転数(=輸送量)を種々変化させて製膜し、形成原理と制御因子の解明を試みた。電解浴中のDAS濃度CDASが低い領域では、DASの導入は拡散律速となり、CuSCNの粒内に取り込まれた複合膜となる一方、高濃度領域では、表面反応が律速となり、無機/有機相分離したユニークなナノ構造を有するハイブリッド膜となる。この仮説を検証すると共に、そのスイッチングをもたらすDASの境界濃度を定量することを試みた。CuSCNの電解析出はCu2+とSCN-イオンの1:1錯体の輸送律速反応であり、CuSCN析出レートPCuSCNは前駆体錯体濃度と拡散係数(Ccomp, Dcomp)を導入したレビッチ式で記述できる。拡散律速領域であれば、DASの析出レートPDASも同様に、レビッチ式での記述が可能となる。実際に、PCuSCNとPDASは常にω1/2に比例した。ωを一定とし、種々のCDASとCcompの組合せについて製膜し、それぞれのCDASについてPDASをCcompに対してプロットすると、Ccompが低い領域ではPDASがCcompに比例して増大し、一定以上高くなるとPDASはCcompに無関係でCDASに比例した一定値に収束する。すなわちこのフラットな領域が拡散律速、Ccompに比例する領域が表面反応律速である。この境界Ccomp値をCDASに対してプロットすると直線関係となり、その勾配からスイッチングが起こるCDAS/Ccomp = 1/31と見積もられ、生成物のモル比としてPDAS/PCuSCN = 1/48となることが分かった。ここで表面反応律速反応を記述する為にn個のDASが1つのCuSCNと結合するような化学平衡反応を仮定した。上記のプロットのスロープとCDASの関係からn≒0.5, つまり2つのCuSCNに1個のDASが結合すると解釈できた。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度は、CuSCNとスチルバゾリウム色素のDASTとの複合膜の形成原理および色素導入メカニズムを明らかにした。本年度は、異なるスチルバゾリウム色素を用いて、形成原理および色素導入メカニズムの普遍性・確からしさを検証し、CuSCN/有機色素複合膜の複合化メカニズム・色素導入モデルを確立し、成膜のコントロール手法を確立する。 さらには、実際に太陽電池の作製に取り組む。光吸収層に層内で生じた励起子を電荷分離し電荷を取り出す事が期待できるCuSCN/DAST複合膜を用いる。またCuSCNはp型半導体であり、ホール輸送層としての機能も期待できる。電子輸送層としては電解析出法により得られる、高結晶性であり電子トラップの少ないことから電子輸送性に優れるZnO薄膜を用いた、新規単一光吸収層型太陽電池の作製に取り組む。
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