研究課題
1)白亜紀海洋無酸素事変1bの火成活動との関連解明申請者は白亜紀海洋無酸素事変(OAE)1bと大規模火成活動の関連を示すため、堆積物中のOs同位体比を用いて両者の関連解明を目指した。テチス海で堆積したイタリアの堆積岩から当時の海洋のOs同位体比を復元した結果、OAE1b中に発生した浮遊性有孔虫の絶滅のタイミングで堆積物中のOs同位体比がマントルの値に急激に近づくことが判明した。これは海洋中で大規模な火成活動が発生していたことを示唆しており、有孔虫の絶滅が火成活動が強く関連していることを示している。また絶滅層準においては炭酸カルシウム濃度が減少、膠着質底生有孔虫の増加、有孔虫のサイズの減少が確認されていることから火成活動を引金に放出された二酸化炭素が、海洋の酸性化を引き起こしそれが有孔虫の絶滅を引き起こした可能性が濃厚である。2)白亜紀の長期的なOs同位体比変動の解明白亜紀前期アプチアンに発生したOAE1aは白亜紀で最大の海洋無酸素事変である。Tejada et al. (2009)ではテチス海で堆積したイタリアの堆積物中のOs同位体比の分析を行なった結果、OAE1aの発生とほぼ同時にマントルの値に近づくことが判明している。しかしテチス海ではOAE1aの直後にもWezel level, Noir levelとよばれる二回の海洋無酸素事変が確認されているが、これらのイベントに関して地球化学的な研究はほとんど進んでいない。本研究ではOAE1aからOAE1bに至るまでのインターバルのOs同位体比分析を行った結果、Wezel, Fallot levelの二層準においてオスミウム同位体比がマントルの値に急激に近づくことが判明した。これらのOs同位体比の変動はオントンジャワ海台形成に関わる火成活動を反映している可能性がある。
1: 当初の計画以上に進展している
初年度にオスミウム同位体比分析を、想定した以上のペースで進めることができたため、本研究の進捗状況は良好である。鉛同位体比分析も開始しており、問題なく進めば今年度中に終了することができる。またサンプリングに関してもイタリアの露頭サンプル、ドイツ・テキサス・高知のコア倉庫から採取することができており、順調に分析は進んでいる。大気海洋研において、イタリア・太平洋の堆積岩サンプルの詳細な炭素同位体比分析・浮遊性有孔虫層序の確立が可能になったため、オスミウム同位体比層序に重要な年代決定がスムーズに行えている点も特筆すべき点である。得られた結果は複数の国内学会・国際学会において発表を行い、オーストラリアのシドニーで行われたInternational conference on paleoceanography では発表賞を受賞した。論文の執筆も順調に進んでおり、論文1本が査読中、論文二本が投稿準備中である。
本研究の大きなテーマである白亜紀海洋無酸素事変1bと火成活動の関連解明に関してはすでに結果が得られており、これからは白亜紀全体のオスミウム同位体比層序の作成に力を入れていくことになる。DSDP Site 167, 463のコアサンプルをアメリカのテキサスにあるコア倉庫から取り寄せ、白亜紀の前半部分の詳細なオスミウム同位体比層序の作成を行う。またイタリアのUmbria Marche basinの露頭サンプルも併せて測定することで白亜紀のAlbian~Turonianのオスミウム同位体比層序の作成にも挑む。オスミウム同位体比分析と並行して現在太平洋コアサンプルの鉛同位体比分析も行っており、本年度中に終了する計画である。また大気海洋研において炭酸塩の炭素同位体比分析・浮遊性有孔虫層序の構築を行うことでOs分析に用いたコアの詳細な年代決定を行う。現在までに得られたデータをまとめることで、今年度中に国際学会へ参加し、国際誌へ4本の論文を投稿する計画である。しかしながら、現在新型コロナウイルスの影響でこの先の海外への渡航・サンプリングの見通しが不透明である。もしイタリアでのサンプルが困難な場合は昨年度高知コアセンターでサンプリングした大西洋の海洋コアサンプルを用いて白亜紀中期から後期のオスミウム同位体比分析を行う。
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