研究課題/領域番号 |
19J20713
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
FERREIRADAROSA PedroPaulo 北海道大学, 大学院総合化学院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | 希土類錯体 / 希土類配位高分子 / テルビウム / ジスプロシウム / 暴露実験 |
研究実績の概要 |
本研究では、優れた感温機能(温度センシング機能)を示す強発光性の希土類配位高分子の開発を目的としている。具体的には4,4’-bipyridine配位子を有する七配位希土類錯体の構造変形によって、感温特性を有する配位高分子の形成を行う。高い変形性を達成するために、七配位型希土類二核錯体から配位高分子の新規な合成法を目指す。この新規な合成法では配位高分子の形態制御や分子内のエネルギー移動プロセスの制御が期待される。そこで、当該年度ははじめにテルビウム(Tb(III))以外の希土類イオンで二核錯体から配位高分子への構造変化による合成を試みた。また、配位高分子の形態制御のため、構造変化を誘起する暴露実験をpyridine(py)分子だけではなくpyの誘導体にも注目した。
Tb(III)以外の希土類イオンを用いて二核錯体から配位高分子への構造変化合成を試みた結果、ジスプロシウム(Dy(III))のみで成功した。ここでは、暴露実験中で形成するpy配位子を有する錯体(Dy(tmh)3(py)2)の中間体の存在に起因すると示唆された。他の希土類イオンではこの中間体または初期構造である二核錯体が形成されなかったことがわかった。
次に、二核錯体の暴露分子を増やし、3位(メタ位)で置換されたハロゲンpy蒸気で成功した。それ以外にもメチル基およびハロゲンを有する誘導体を用いて実験を行った。4-methylpyridineおよび2位(オルト位)で置換されたハロゲンpyは暴露実験で配位高分子への構造変化に適用できなかった。また、3位(メタ位)で置換されたハロゲンpy蒸気で得られた構造はpy暴露実験から得られた構造と少し異なっていることがわかった。これはそれぞれのpyは異なる中間体を形成し、配位高分子への構造に影響したためと示唆された。この新しい配位高分子の構造は光物性に影響することが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の最終な目標は感温機能を示す強発光性の希土類配位高分子の開発である。また、高い変形性を達成するために、七配位型テルビウム(Tb(III))二核錯体から配位高分子の新規な合成法を目指している。現在まで、4,4’-bipyridine配位子を用いたTb(III)二核錯体および配位高分子の合成に成功した。また、ピリジン(py)暴露実験により、初めて二核錯体から配位高分子への構造変化を達成した。前年度ではTb(III)以外にもジスプロシウム(Dy(III))を用いてDy(III)配位高分子の合成に初めて成功した。他の希土類イオンを有する配位高分子の合成を試みたが、イオン半径の違いのため不可能であった。今後、Tb(III)およびDy(III)の混合した配位高分子を合成し、その感温特性について検討する。
また、配位高分子の合成に必要な暴露実験の分子を増やし、異なる構造を示す配位高分子の合成を行った。具体的にはpyのハロゲン誘導体を用いた。3位(メタ位)で置換されたハロゲンpyを用いて暴露実験を行ったことで構造変化に成功した。得られた構造はpy暴露実験から得られた構造と少し異なっていることがわかった。この新しい配位高分子の構造は光物性に影響することが期待され、今後はその測定を行い、その変化について検討する。
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今後の研究の推進方策 |
まずは4,4'-bipyridine配位子を用いた二核テルビウム(Tb(III))錯体およびTb(III)配位高分子を追合成し、単結晶を得る。また、昨年度で達成した二核ジスプロシウム(Dy(III))錯体も追合成し、単結晶を得る。4,4'-bipyridine配位子を有する二核錯体はピリジン誘導体の暴露実験により配位高分子に構造変化が可能と報告してきた。そこで、今後では粉末ではなく単結晶の状態で構造変化を試みる。具体的には、異なる希土類イオン(Tb(III)およびDy(III))の二核錯体の単結晶を用いて、単結晶の接触部分のみでピリジン暴露実験により新しい配位高分子の合成を行う。ここでは配位高分子・MOF分野において二核錯体の構造変化からブロックのコポリマー(DyDyDyTbTbTb)の合成の最初例になることが期待される。この新しい配位高分子ではDy(III)およびTb(III)の間隔は長くなり、分子内のエネルギー移動プロセスには影響することが考えられる。さらに、Dy(III)イオンの励起準位はTb(III)の励起準位より高いので、Dy(III)を選択的に励起するとTb(III)イオンにエネルギー移動し、発光することが期待される。構造変化は単結晶構造解析から得られる回折パターンとパウダーXRD測定により同定を行う。
次に、この長距離エネルギー移動プロセスをさらに理解するために、温度可変の寿命および発光スペクトル測定を行い、配位高分子の感温機能の評価を行う。新たな発光色変化および長距離エネルギー移動由来の感温特性を示す配位高分子を目指す。
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