研究実績の概要 |
平面曲線に対し, 曲率の二乗積分で与えられる汎函数として曲げエネルギーと呼ばれる量がある. 曲げエネルギーの Euler--Lagrange 方程式は位置ベクトルに関する四階の微分方程式として特徴づけられる. 高階性に加え汎函数の非凸性から, 曲げエネルギーの最小元の一意性を示すことは一般には困難である. 本年度は shooting method と呼ばれる手法を応用することで高階性がもつ困難点を打破し, 以下のような曲げエネルギーの変分問題に関する結果を得た. 1. グラフ曲線に, 障害物を表す既知函数を下回らないという外的束縛が加えられた条件の下で曲げエネルギーを最小化せよという障害物問題を考察した. 障害物が対称錐型であるとき, 障害物の高さが臨界の高さ未満の場合に対称最小元は存在し, 臨界の高さ以上だと存在しないことを示した. また, 対称曲線の最小元の一意性を得た. 加えて, 最小元は連続的三階微分可能でないことも示した. 障害物による外的束縛が無いと最小元は解析的となることから, 本結果より障害物は変分問題の解の正則性の損失を誘因し得ると見做すことができる. さらに, 上記結果の応用として, 対応する時間発展問題の解が時刻無限大で定常解へ完全収束すること, 及びその収束するノルムに関する結果を得た. この結果は論文として纏められ, 学術誌に投稿中である. 2. 「曲線の長さ一定なる束縛条件・両端の位置ベクトルを固定した境界条件」と言う条件が課された下での曲げエネルギーの臨界点を全て求め, 各臨界点の明示公式を導出した. 明示公式は自己交叉や変曲点の数など, 臨界点の定性的特徴を与えるのみならず, 各臨界点の曲げエネルギーの定量的な比較も可能にする. 公式の応用として上記条件の下での最小元の一意性を示した. この結果は論文として纏められ, 学術誌に投稿中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は時間発展問題の定常解として期待される変分問題の解に対する研究を中心に行った. 特に, 障害物問題に関しては証明の過程で曲率という幾何構造に着目し, 正則性の損失という障害物問題特有の現象を導くことに成功した. 一方でその分, テーマとして掲げていた勾配流の解の爆発等, 時間発展問題に関する研究の進展が遅れている. これらの理由を総合しておおむね順調に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
初年度と今年度において半線形の放物型方程式に関する基礎的な解析手法の確立, 及び解の爆発や定常解への収束に関する解析を行ったので, 今後は準線形の問題に対応する障害物問題について取り組む. 具体的には, 一般のパラメタ p に対し, 曲率の p 乗積分で与えられる汎函数 (以下, p-曲げエネルギーとよぶ) に対する障害物問題を考察する. p-曲げエネルギーの Euler--Lagrange 方程式は主要部に非線形性を有するため, 解析の難度が増すが, 方程式の退化性や特異性から新たな変分問題の解の定性的性質が得られることが期待される. 特に, 障害物が特異現象を誘因するかに焦点を当てて研究を展開していく.
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