研究課題/領域番号 |
19J20760
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
馬場 慧 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | スロー地震 / scaled energy / 超低周波地震 / 低周波微動 |
研究実績の概要 |
採用者は、現在、スロー地震と呼ばれる通常の地震よりも遅いすべり速度で断層破壊が起こる現象の研究を行っている。スロー地震は、沈み込み帯のプレート境界面上の、巨大地震発生帯の隣で発生し、巨大地震と共通の発震機構解をもつので、巨大地震との関連性も指摘されているが、活動の実態をつかめていない部分も多い。 採用者は、中米のコスタリカで、超低周波地震(以下、VLFE)の検出を2004年から2005年の範囲で行い、この期間のVLFEの多くが、コスタリカ北部にあるニコヤ半島の沖合の海溝軸近くに分布していることを明らかにした。また、検出されたVLFEのモーメントレートの推定と、VLFEに同期する低周波微動のエネルギーレートの推定を行い、低周波微動のエネルギーレートとVLFEのモーメントレートの比から、コスタリカのスロー地震のscaled energyを評価した。その結果、コスタリカのスロー地震のscaled energyは、先行研究で求められた南海トラフ沿いの浅部スロー地震と同じ、10の-9乗から-8乗の範囲に分布していた。Scaled energyは地震の破壊プロセスと関係すると考えられており、この結果はコスタリカと南海浅部のスロー地震の破壊プロセスが類似していることを示唆する。 また、採用者は九州の太平洋沖にあたる日向灘のスロー地震のscaled energyは評価も行った。Yamashita et al. (2015) が検出した低周波微動について、低周波微動のエネルギーレートとVLFEのモーメントレートを評価した。その結果、日向灘のスロー地震のscaled energyは、10の-12乗から-10乗の範囲に分布しており、四国・紀伊半島沖や東北・十勝沖の浅部スロー地震と比べて2桁ほど小さいことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
採用者は、南海トラフ沿いの西南日本における超低周波地震(以下、VLFE)を網羅的に検出し、各VLFEのモーメントを評価した。その結果、VLFEの活動度とプレート間の固着の強さには負の相関があることを明らかにした。この研究成果を国内外の学会で発表し、地球物理学の国際誌であるGeophysical Research Lettersに投稿し、査読を経て出版した。 採用者はさらに解析対象を海外にも広げ、中米のコスタリカでも解析を進め、コスタリカの太平洋沖の海溝近くで多くのVLFEを検出したほか、それに同期する低周波微動のエネルギーレートの推定も行なった。低周波微動のエネルギーレートとVLFEのモーメントレートの比から、コスタリカのスロー地震のscaled energyを評価し、コスタリカのスロー地震のscaled energyは、先行研究で求められた南海トラフ沿いの浅部スロー地震と同じ、10の-9乗から-8乗の範囲に分布していて、コスタリカと南海浅部のスロー地震の破壊プロセスが類似していることを示唆した。この研究成果は、すでに国内外の学会で発表され、論文として地球物理学の国際誌であるJournal of Geophysical Research: Solid Earthに投稿中であり、現在査読を受けているところである。現在、採用者は九州の沖合の日向灘のスロー地震活動に対象を移し、日向灘の低周波微動のエネルギーレートと、VLFEのモーメントレートの比が、他地域のスロー地震よりも小さいことを明らかにした。この研究成果は今後国内外の学会で発表する予定である。 このように、この1年間で論文が1本受理され、1本投稿・査読中であるなど、おおむね順調に研究が進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
申請者は、九州の沖合の日向灘で、低周波微動のエネルギーレートと超低周波地震(以下、VLFE)のモーメントレートの比から求められるscaled energyが、他の沈み込み帯よりも小さいことを示した。このことは、日向灘のスロー地震の破壊伝播様式が他の沈み込み帯のスロー地震と異なることを示唆する。日向灘は、プレート間の固着が弱いと考えられているほか、九州・パラオ海嶺が沈み込んでいるなど、沈み込むプレートの表面の地形の特徴が他の地域の浅部スロー地震発生領域と大きく異なっている。今後、これらの観点から、日向灘のスロー地震のscaled energyが小さい理由を検証する。 また、四国・紀伊半島・東海地方では深部スロー地震の活動が報告されているが、この地域全域で、個々のスロー地震のイベントでのscaled energyを求めた研究例は少ない。そのため、四国・紀伊半島・東海地方で低周波微動のエネルギーレートを求めた研究であるYabe et al. (2014)のイベントについて、時空間的に対応する超低周波地震のモーメントレートを求め、深部スロー地震のscaled energyを統一した手法で評価する。 昨年度求めたコスタリカのスロー地震のscaled energyや、Yabe et al. (2019; 2021)によって求められた四国沖・紀伊半島沖・東北沖・十勝沖のscaled energyと、上記の研究で求めたscaled energyを比較し、沈み込み帯のテクトニクスの特徴から、scaled energyの類似性や違いが、何に起因するかを調査する。 また、昨年度・一昨年度の研究で検出を行なった、日本周辺の超低周波地震について、地域ごとの活動の継続時間や発生間隔を定量的に評価し 、その違いの要因を、沈み込み帯のテクトニクスの特徴から考察する。
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