研究課題/領域番号 |
19J20763
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
勝呂 剛志 東北大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
|
キーワード | 対数型 Sobolev の不等式 / エントロピー / モーメント不等式 / 移流拡散方程式 / 準線形偏微分方程式 / 不確定性原理 |
研究実績の概要 |
本年度に実施した研究の成果として、多孔媒質中を流れる物質の密度分布を記述する準線形偏微分方程式に対応したエントロピー汎函数を制御する函数不等式の最良定数とその等号達成条件を同定した。これは、次年度以降の準線形偏微分方程式の研究を視野に入れたもので、熱方程式と Boltzmann--Shannon エントロピーの関係に注目したことから本研究に着手した。対応するエントロピー汎函数は統計力学や情報理論でよく知られている Boltzmann--Shannon エントロピーの1パラメータ拡張であり、このエントロピー汎函数の最適な制御により、準線形偏微分方程式の解の性質、とりわけ、有界性評価や正則性を検証できるのではないかと考えられる。また、得られた函数不等式の帰結として、より一般化された不確定性原理を通した、対数型 Sobolev の不等式とモーメント不等式の関係を見ることができた。 他方で、上記で述べた不等式を用いることで、準線形移流拡散方程式の初期値問題の十分小さい初期値に対する時間大域解の漸近挙動の同定に成功した。これは、熱方程式や準線形拡散方程式において既に知られていた、エントロピー汎函数がその勾配流に沿って生成する汎函数によって制御されるといった関係を用いる手法を応用したものである。移流拡散方程式とは、主要項である拡散方程式に非線形干渉項である移流項を加えたもので、この方程式に対応する汎函数は、エントロピー汎函数と相互作用エネルギーの和で表される。ここでは、初期値に対して適切な小ささを課すことで得られる時間大域解が、主要項、すなわち、拡散方程式の解に漸近的に挙動することが得られた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究は、熱方程式に解の冪乗を非線形項に擁するような半線形熱方程式の解の正則性の検証を目的としていた。本研究では、エントロピー汎函数を中心とした函数不等式の発展方程式への応用を目指している。そのため、汎函数において内部エネルギーに相当するエントロピー項に他のポテンシャル項を加える半線形熱方程式の研究の前段階として、エントロピー項の拡張に対応する準線形拡散方程式の研究に着手した。汎函数の制御や方程式の解の漸近挙動の研究は、方程式の解の正則性を検証する点で重要であるため、研究は概ね順調に進展していると判断する。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策として、非局所的な拡散方程式である移流拡散方程式の初期値問題の一様局所可積分空間における適切性の検証を目的とする。問題の解の有界性や正則性を検証する際に、空間局所的な情報を引き出す一様局所可積分空間が多用されており、方程式の解の Harnack の不等式や正則性を導出する前段階として、初期値問題の適切性を整備する。また、主要項が熱方程式以外の準線形移流拡散方程式の初期値問題の解の存在の研究も並行して行う。
|