本年度に実施した研究の成果として、走化性粘菌の運動を記述する Keller-Segel 系の初期値問題の零緩和時間極限を一様局所可積分空間で示した。この方程式系は2本の放物型方程式からなる非線形偏微分方程式系であり、方程式中のパラメータの極限操作により、第二式が放物型から楕円型と偏微分方程式を規定する型が変わるため、これを特異極限と呼ぶ。この研究は昨年度に実施した研究である、Keller-Segel 系の単純化である移流拡散方程式の初期値問題の一様局所可積分空間における適切性の研究に端を発するものであり、小川卓克氏 (東北大学) との共同研究に基づくものである。特異極限の収束の証明においては、一様局所可積分空間における熱方程式の初期値問題の解の最大正則性理論を適用する。最大正則性理論は UMD 空間と呼ばれる、Lebesgue 空間を代表とする性質を擁する函数空間上で整備されている。一方で、一様局所可積分空間は UMD 空間ではないことが知られており、最大正則性を示すためには個別の議論を要する。本研究では、一様局所可積分空間の実補間空間を用いることで、熱方程式の初期値問題の解の一般化最大正則性を示した。これは、Keller-Segel 系や移流拡散方程式に限らず、流体の運動を記述する Navier-Stokes 方程式の初期値問題への応用が期待される。また、熱方程式の解の最大正則性理論は解析半群との関わりが強い一方で、対数型 Sobolev の不等式も熱半群の消散評価と相関関係を持つので、放物型偏微分方程式の数学的構造を代表する性質としての最大正則性と対数型 Sobolev の不等式の関連が期待される。
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