研究課題/領域番号 |
19J20768
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
藤内 亮 千葉大学, 融合理工学府, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | 非平衡 / 超伝導 / 励起子絶縁体 |
研究実績の概要 |
本年度は、拡張Falicov-Kimball模型に対して、時間発展厳密対角化法を用いた数値的解析を行い、光照射による励起子凝縮相の非平衡ダイナミクスの研究を行った。 近年、ポンププローブ法などの時間分解測定の発展により、実時間的に物質中の特性を捉える実験が注目を浴びている。励起子絶縁体の候補物質として考えられているTa2NiSe5及び1T-TiSe2に対しても時間分解測定による観測が近年盛んになされているが、理論的解明は緒についたばかりである。本研究に用いた拡張Falicov-Kimball模型は、多軌道スピンレス模型であり、軌道間のクーロン相互作用により基底状態において励起子絶縁体相が発現することが知られている。この模型に対して、ポンプ光照射に対応させたベクトルポテンシャルを導入し、時間発展Lanczos法による数値計算を行い、励起子相関関数及び電子ペアリング相関関数の光誘起ダイナミクスの理論的解析を行った。その結果、この模型では、照射されたポンプ光における特定の振動数にて、励起子相関関数の強い減衰が起こるとともに、軌道間の電子ペアリング相関関数が増強されることを明らかにした。この軌道間電子ペアリング相関関数の増強は、拡張Falicov-Kimball模型の基底状態では発現しない、隠れた固有状態である電子ペアリング状態の光誘起として説明することができる。 また、基底状態において超伝導相と電荷密度波相が縮退することが知られている引力Hubbard模型に対して、周期的外場を印加し、強結合領域における超伝導相及び電荷密度波相の光誘起相転移の可能性を議論した。この研究により、周期的に印加された外場の振動数及び振幅による、電荷密度波相関関数及びペア相関関数の増幅・抑制の振る舞いを明らかにし、Floquet理論と強結合展開を用いて導出される有効模型によってその性質を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、時間発展厳密対角化法の手法を習得するとともに、拡張Falicov-Kimball模型における励起子相関関数の光誘起ダイナミクスの研究及び引力Hubbard模型におけるペア相関関数・電荷密度波相関関数のFloquet engineeringに関する研究を行った。 拡張Falicov-Kimball模型を用いた研究では、ポンプ光照射により励起子相関関数が強く抑制されるともに、軌道間の電子ペアリング相関関数が増強されることを数値計算によって明らかにした。この軌道間電子ペアリング相関関数の増強は、拡張Falicov-Kimball模型の基底状態では発現しない、隠れた固有状態である電子ペアリング状態の光誘起として説明することができる。 また引力Hubbard模型に関する研究では、周期的に印加された外場の振動数及び振幅により、電荷密度波相関関数及びペア相関関数の増幅・抑制の振る舞いを明らかにし、Floquet理論と強結合展開を用いて導出される有効模型によりその性質を理論的に明らかにした。 この他にも、熱的量子純粋状態法を変分クラスター近似のソルバーに採用し、有限温度における新規計算手法の開発に関する研究にも取り組んだ。したがって、本研究はおおむね順調に進展しており、期待通りの成果を得ることができたといえる。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度以降の本研究の推進方策としては、本年度習得した時間発展厳密対角化法に加えて、新たに時間依存密度行列繰り込み群(DMRG)法の習得に努めるとともに、これらの非摂動論的計算手法を多軌道模型に適用することにより、多軌道強相関電子系における非平衡ダイナミクスの理論的解明に取り組んでいく。 扱う模型としては、超伝導や反強磁性といったスピン自由度が重要となる量子凝縮状態を扱うため、スピン自由度を含む2軌道Hubbard模型を採用する。2軌道Hubbard模型に対して、時間発展厳密対角化法及び時間依存DMRG法を相補的に用いて、ポンプ光照射による各種相関関数の非平衡ダイナミクスを解析する。また1粒子スペクトルおよび光学伝導度といった実験にて観測可能な物理量についても数値的解析を行い、実験との比較を通じて解析の妥当性を検証する。これらのプロセスによって多軌道強相関電子系における非平衡状態の多彩な量子凝縮相間で移り変わる光誘起相転移現象とその制御可能性を究明していく。
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