研究課題/領域番号 |
19J20770
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
宮島 舜 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | スフラワルディー / 認識論 / 論理学 / 自然学 / 強度 / 光 / 光の形而上学 |
研究実績の概要 |
本研究は12世紀の哲学者スフラワルディーの思想を対象とするものである。彼の認識論を論理学と自然学に着目しつつ明らかにすることで、その哲学体系の理論的構造を明らめることを企図する。 本年度の実績については以下のとおりである。 これまで「存在の本源性」という立場と対比されるかたちで「何性の本源性」として語られることの多かったスフラワルディーの形而上学的な立場を再考する「何性の本源性の再考」と題する学会発表を行なった。論理学と自然学の学説を含めたスフラワルディーの知識論から考察することによって、「何性の本源性」という呼称およびそれに基づいた先行研究のスフラワルディー形而上学理解が当を得たものではないことを示した。本発表の内容は文章にまとめ投稿した。くわえて本年度は「スフラワルディー哲学における強度について」と題する発表も行なった。本発表ではスフラワルディーがその形而上学において重要な概念として用いる「強度」に留目し、それを範疇論の視角から検討することで同概念のこれまで語られてこなかった側面を明らかにするとともに、同概念がスフラワルディー形而上学に理論的基礎をあたえていることを指摘した。この発表をさらに発展させることで、二つの論文が形成され、そのうちの一つを本年度中に投稿した。さらに本年度は『イスラム思想研究』へ『照明哲学』第一部第二巻の後半部の翻訳・訳註を投稿した。アラビア語圏では論理学および言語哲学が独自の発展を遂げており、哲学史全体からみても非常に興味深いものがある。本翻訳・訳註はスフラワルディーの論理学説のみならず、まだまだ日本語の資料の乏しいアラビア語論理学そのものへの手引きともなろう。くわえて、2本の書評(うち一つは「新刊紹介」)の依頼を受け、これを執筆した。アラビア哲学の認識論にかんする研究書とコーランの概説書の書評であり、いずれも本研究に関わりの深い文献である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
特別研究員の二年目に立てた計画は以下のとおりである。スフラワルディーの認識論にかんする口頭発表および論文投稿、スフラワルディー形而上学における強度概念にかんする口頭発表および論文投稿、スフラワルディーの主著『照明哲学』の論理学にかんする箇所の翻訳・訳註の発表、である。スフラワルディー認識論にかんする発表が論文ではなく短い文章での発表にかえられたことを除けば、すべての計画を履行しえた。さらに、以上に加えて、当初計画にはなかった依頼原稿(書評)を2本執筆した。いずれも本研究の主題であるアラビア哲学の認識論に関わる内容である。これらを勘案すれば、「当初の計画以上に進展している」と十分に判断しうるであろう。
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今後の研究の推進方策 |
引き続きテクストの精読を行なう。本年度はこれまでよりもファーラービーやイブン・シーナーといったアラビア哲学古典期のテクスト、そしてさらに彼らに影響をあたえた古代末期のギリシア語圏の哲学テクストにも積極的にあたることを計画している。それによりスフラワルディーの思想により正確な哲学史的布置をあたえることが可能となるとともに、彼の思想の「哲学」としての理解がいっそう透徹されることであろう。 また、感染症の流行のために海外渡航の可能性にかんして容易には確言できないが、少なくとも現時点では、本年度中の在外研究を予定している。現在アラビア哲学における認識論およびスフラワルディー研究を国際的にリードする研究者の指導のもとで研究をすすめる計画である。さらに可能であれば他の国にも資料収集に赴きたいと考えている。
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