研究課題/領域番号 |
19J20801
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小林 良平 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | トポロジカル相 / トポロジカル絶縁体 / 高次形式対称性 |
研究実績の概要 |
当該年度は、トポロジカル絶縁体の表面に配置された超伝導薄膜において実現すると考えられる、新奇なトポロジカル相の解析を目的とした研究を行った。量子状態が非自明なトポロジカル相であることを判定するためには、量子状態の波動関数を、テンソル積状態 (TPS) を用いて表現し、波動関数を構成するテンソルに対する対称性の作用を解析する手法が用いられるが、フェルミオン系はその非自明な統計性のため、TPS に基づいた量子相の解析が困難である。そこで我々は、近年提唱された高次元におけるボソン化法を用いて、フェルミオン系と等価なボソン系を得ることを考え、ボソン系のトポロジカル相の解析によって、フェルミオン系における量子相に関する情報を抽出することを試みた。 上記の背景に基づき、我々は、表面が存在する系において、ボソン化やフェルミオン化に対応して、ボソン理論とフェルミオン理論を関連づける写像を、格子上の場の理論のレベルで一般の時空次元において定式化し、フェルミオン的な自由度を含むトポロジカル相の格子理論を、ボソンの理論から系統的に構成する方法を与えた。上記におけるフェルミオン理論の構成法は、理論が時間反転対称性や高次形式対称性を含む大域的な対称性を持つ場合においても有効である。特に、大域的対称性を持つボソントポロジカル相をフェルミオン化することにより、対称性に保護されたフェルミオントポロジカル相を系統的に構成できる。 上記のボソン化法の開発により、対称性の存在下で出現する新奇なフェルミオントポロジカル相の解析が進展し、超伝導薄膜の模型をボソン化することにより、この系が時間反転対称性と高次形式対称性に基づいた非自明なトポロジカル相を示すことを確認することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
超伝導薄膜におけるフェルミオン系は高次形式対称性などの対称性を持つため、ボソン化を通じて理論を解析する際に、フェルミオン理論と双対なボソン理論に対し、どのように対称性が作用するか系統的に理解する必要があった。そのため、従来の高次元ボソン化を対称性が存在する場合に拡張し、ボソン系とフェルミオン系で実現されるトポロジカル相の間の関係を架橋する理論を構築することを試みた。 結果的に、ボソン理論とフェルミオン理論を関連づける写像を、対称性の存在下で一般の時空次元において定式化し、フェルミオン的な自由度を含むトポロジカル相の格子理論を、ボソンの理論から系統的に構成する方法を与えることができた。特に、大域的対称性を持つボソントポロジカル相をフェルミオン化することにより、対称性に保護されたフェルミオントポロジカル相を系統的に構成できる。この手法の応用として、有限群の対称性に守られた特定のクラスのフェルミオントポロジカル相 (Gu-Wen SPT相)に対して、その境界に対称性を保つギャップドなトポロジカル秩序が出現しうることを、一般の時空で具体的な格子理論を構成することにより示した。 超伝導薄膜における具体的な系の解析に焦点を当てた研究が目的であるものの、その副産物としてトポロジカル相における普遍的な関係や定理、及びフェルミオントポロジカル相を解析する際に非常に有用なツールを開発できたという意味において、当該研究は当初の計画以上の進展を見せたと言える。
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今後の研究の推進方策 |
我々が開発したボソン化の手法を、テンソル積状態 (TPS) に基づいた量子状態の記述法に適用することで、フェルミオン系におけるTPSの定式化を行う。上記のTPSに基づき、波動関数を構成するテンソルに対する対称性の作用を解析することで、TPSで表される波動関数に対する、高次形式対称性を含む対称性の表現を分類する一般論を確立する。その上で、マヨラナフェルミオン系の基底状態のTPS を構成するテンソルに対する、高次形式対称性と空間的対称性の作用を調べることにより、空間的対称性も考慮した際に基底状態でどのような対称性被保護トポロジカル相(SPT相)が実現されるか明らかにする。非自明なSPT 相を実現する相互作用パラメータにおいては、得られたSPT 相に基づく量子計算が有限温度環境下で安定である可能性を検討するため、有限温度環境下における擾乱を局所的な測定によって完全に訂正することが可能か検討する。
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