研究実績の概要 |
本研究の目的は以下の二点を含む。1)不斉配位子のデザインによる光学活性な有機ホウ素化合物の新規合成法の開発。2)有機銅(III)の高い還元的脱離能を用いた立体的に嵩高い構造の構築。多置換のアリルホウ素化合物は有機合成における有用な合成中間体であると認識されている。特に安価な銅を触媒とした合成法の開発は重要な課題である。このような背景のもと、本年度では以下の成果を得た。 1.非共有結合性相互作用を用いた不斉配位子のデザインによるラセミ体アリル求電子剤の不斉ホウ素置換反応(J. Am. Chem. Soc. 2021, 143, 6413):昨年度までに、非共有結合性相互作用を用いた配位子の配座規制戦略に基づき新規配位子を開発し、ヘテロ環を含む5~7員環基質に対する直接エナンチオ収束型のγ位不斉ホウ素置換反応、および直鎖基質に対する速度論的光学分割型のγ位不斉ホウ素置換反応を開発した。本年度は、量子化学計算を用いた詳細な解析を実施した。その結果、配位子の剛直な不斉場が基質のアルケン部のエナンチオ面の認識に重要であることが分かった。また、非共有結合性相互作用が休眠種を不安定化し、活性種の発生を促進することで高い反応性が発現していることが明らかとなった。 2.アレン類のカルボホウ素化反応による多置換アリルホウ素化合物の合成(J. Am. Chem. Soc. 2021, 143, 13865):有機銅(III)の高い還元的脱離能を用いて四置換アルケン構造を構築するという戦略に基づき、銅/ジボロン触媒系を用いたgem-二置換アレン類のカルボホウ素化反応によって多置換アリルホウ素化合物の合成を行った。基質適応範囲の検討の結果、本反応はメチル基の他に様々な第一級、第二級、第三級のアルキルの組み合わせを持つ幅広いアレン基質に対して適応可能であり、高収率で生成物が得られることが分かった。
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