研究課題/領域番号 |
19J20824
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
高橋 里奈 北海道大学, 大学院総合化学院, 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
|
キーワード | メカノケミカル合成 / 有機金属化学 / 有機合成化学 / グリニャール試薬 |
研究実績の概要 |
一般式RMgXで表される有機マグネシウム試薬はGrignard試薬と呼ばれる。有機合成において最も頻用される有機金属試薬のひとつであり、様々な求電子剤との反応へと用いられてきた。このGrignard試薬は有機ハロゲン化物と金属マグネシウムとをエーテル系溶媒中で反応させるだけで簡便かつ低コストに合成することができる。ただし、Grignard試薬は水や酸素、二酸化炭素等と反応してしまうため、一般には合成から保管、反応の実施まですべて禁水・禁酸素条件で行う必要がある。また、Grignard試薬の調製に使用するマグネシウム金属の表面は酸化皮膜で覆われており、効率よく合成するためには事前の活性化を要する。これらの制限は実験の再現性に影響を与えることが多く、改善の余地があると言える。 最近、当研究グループはボールミル装置を使用した無溶媒メカノケミカル有機合成により、不安定な有機金属種が関与する反応を空気中で実施できることを報告している。このような背景から、Grignard試薬の調製と反応について、ボールミル装置の使用により空気下で簡便かつ再現性よく行う手法の開発に着手した。具体的には、ミキサーミルとステンレス製の反応用ジャーを使用し、ブロモベンゼンおよび削り状マグネシウムをボールミル装置で粉砕しながら反応させ、生じた有機マグネシウム試薬をアルデヒドにより捕捉を試みた。当初、目的物は低収率にとどまったものの、適切な添加剤の選択により目的物を高い収率で得られた。メカノケミカル条件下で調製した有機マグネシウム試薬は従来のGrignard試薬と同等の反応性を有しており、種々の有機求電子剤との反応の他、遷移金属触媒を用いたクロスカップリング反応への応用にも成功した。本反応はすべての操作が簡便かつ空気下で行えることに加えて、試薬の調製からその反応まで2時間以内という短い時間で実施できる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
有機ホウ素化合物を利用したペプチド合成関連の研究は昨年度に引き続き難航しており、当初期待していたほどの進展はなかった。感染症流行の影響を受けて、申請時に予定していた短期留学も断念した。しかし、今後も共同研究者と協力し、研究を進めていく予定である。一方で、昨年度からボールミル装置による機械的な力を利用したメカノケミカル有機合成に取り組んでいる。メカノケミカル合成は有機合成化学分野において近年注目が高まっており、溶液系とは異なる反応性が報告されている。今年度は有機金属化合物のメカノケミカル合成に関して新たなテーマを立ち上げ、論文化するのに十分な成果を挙げている。 上記より、有機ホウ素化合物を利用したペプチド合成関連の研究については期待ほどの進展はなく、タンパク質の化学合成への応用という目標はまだ遠いものの、新しい分野に挑戦して成果を上げたことは十分な進捗だと考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
側鎖にアシルボロン構造を有するL-アスパラギン酸およびL-グルタミン酸誘導体を合成し、それらを用いてKATライゲーションによる特殊ペプチドの合成を試みる。ペプチド合成における縮合反応の条件下でアシルボロン構造が不安定な可能性があるが、共同研究者が開発した保護方法を適用することにより解決できると考えている。この保護基を使用してアシルボロン構造を含むα-アミノ酸が導入されたペプチドを合成し、KATライゲーションによるペプチド側鎖の修飾が可能であることを実証する。その後、合成した化合物と得られた知見を共同研究者に提供し、さらに高分子量のペプチドへの応用を達成する。本年度はCOVID-19の流行状況によるもののスイスへの短期留学を予定している。スイス連邦工科大学チューリッヒ校にてKATライゲーションにかかわる技術を習得しながら、アミノ酸C末端のアシルボロン部分を樹脂に担持するために適切なリンカーを設計・合成し、ペプチド固相合成法によるペプチドアシルボロンの合成を試みる。
|