研究課題/領域番号 |
19J20827
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
大橋 慧介 北海道大学, 国際食資源学院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | バイオマス利用 / 糖質分解酵素 / 放線菌 / 転写制御 |
研究実績の概要 |
効率的な資源作物の分解技術の開発を目指し、生化学的手法およびプロテオミクス解析技術を用いて植物バイオマス分解性昆虫共生放線菌由来の高バイオマス分解酵素の探索を目的に、研究を行った。 19種のセルロース分解性放線菌は、植物細胞壁構成多糖であるセルロース・キシランおよび、植物バイオマスである、ススキ (Miscanthus sinensis) を単一炭素源として生育することが確認された。また、数種類の放線菌について、培養上清に含まれる分泌タンパク質を回収し、DNS法による多糖分解活性を測定およびLC-MS/MSによる網羅的な分泌タンパク質同定を行った。その結果、放線菌種および単一炭素源の違いによる特異的な非活性および糖質分解酵素の分泌が確認された。 また、並行して、セルロース分解性放線菌における、糖質分解酵素の発現調節を担う転写因子の同定および機能解析に取り組んだ。セルラーゼ遺伝子を主に制御する転写因子が既に報告されている、Streptomyces sp. SirexAA-E株について、異なる単一炭素源存在下における、高分泌の分解関連酵素に注目し、調節タンパク質の同定を行った。具体的には、セルロースに次ぐ植物バイオマスである、キシランにより複数のキシラン代謝関連酵素の分泌が誘導されることが明らかとなった。この特異的発現を制御すると予想される転写因子を推定し、大腸菌を用いた異種発現を行った。得られた組換えタンパク質とDNAとの結合実験の結果から、この転写因子は、キシラン代謝関連遺伝子の発現を調節をするリプレッサータンパク質であることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
放線菌由来の分泌タンパク質の調製および多糖分解活性、網羅的なタンパク質の解析については予定よりやや遅れている。 分泌タンパク質の抽出が困難な原因として、既に糖質分解酵素の分泌が報告されている放線菌であるStreptomyces sp. SirexAA-E株に比べ、数種類の菌株において、生育速度が遅いことや酵素分泌量が少ないことが挙げられる。加えて、培地中の単一炭素源として用いた、結晶性セルロースによる酵素分泌の誘導が弱いことも挙げられる。そのため、前培養の実施に加え、可溶性の非結晶性セルロースを用いることで、これまでに半数以上の放線菌の分泌酵素の抽出に成功した。現在、残りの放線菌について同様に実施している。 一方で、派生した研究である、糖質分解酵素の発現メカニズムの解明は当初の計画以上に進捗した。上記のStreptomyces sp. SirexAA-E株について、キシラン代謝関連タンパク質の発現を調節をする新規の転写因子を同定した。
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今後の研究の推進方策 |
19種全ての分泌タンパク質の調製および、糖質分解活性の評価、プロテオミクス解析を2020年度中に完了する予定である。 その後、高い糖質分解酵素活性を示す放線菌株より、最大20種類のバイオマス分解酵素を選抜し、大腸菌を用いた組換えタンパク質を調製する。順次、得られた各酵素の多糖分解活性を測定し、植物バイオマスを構成するそれぞれの多糖に対して最も高い分解能を示す酵素の選抜を行う。 また、キシラン代謝関連遺伝子を制御する、新規の転写タンパク質については、DNAとの結合阻害因子の同定およびDNAフットプリントを用いた詳細な結合領域の決定を試みる予定である。
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