研究実績の概要 |
研究代表者が所属する研究グループが作製した新規マウス系統(Qrfp-iCre)とCre酵素依存性AAVベクターを用いて、このマウスの視床下部の特定の部位(前方腹側脳室周囲核)に位置するニューロン群を選択的に興奮させた結果、このマウスの代謝率と体温が長期間(少なくとも一日以上)にわたり著しく低下することを見出した。 この休眠に似た状態を誘導するニューロン群をQニューロン(Quiescence-inducing neuron:休眠誘導神経細胞)、Qニューロンの興奮によって引き起こされる長期的な低代謝・低体温状態をQIH(Q neurons-induced hypometabolism/hypothermia)と名付けた。QIH中のマウスの体温制御機構を解明すべく行った実験観察の結果、この低代謝・低体温は、設定体温(体温のセットポイント)の低下ならびに熱産生感度の低下によって実現されていることが判明した。またこのマウスは全個体が自発的に正常状態に戻ることがわかった。これらの特徴は、QIHが冬眠(hibernation)に類似する低代謝状態であることを支持した。したがってQIHは冬眠様状態であるという主張を軸に、当該研究内容を論文としてまとめ、(研究代表者を単独筆頭著者、受入研究者を責任著者として)正式に公開された(Takahashi TM et al., Nature, 583 109-114 (2020) )。 当該論文の成果は、非冬眠哺乳動物(マウス)に冬眠を導く神経システムが眠っている可能性を提唱しており、冬眠現象を人工的にヒトに応用する技術(人工冬眠)の開発への重要な進歩となり得る。また、マウスという強力な研究ツールを哺乳類の冬眠研究へ適用させたことから、当該研究は冬眠・低代謝学問領 域の重要な基盤となる研究となる可能性を秘めている。
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