研究課題
地球周辺では、太陽風に含まれる重イオンが 10 地球半径以上に広がる希薄な超高層大気から電子を奪い、電荷交換X線を生じる。本研究の目的は、この地球周辺の電荷交換X線の空間分布や時間変化を調べ、宇宙で普遍的な電荷交換反応の理解を深めつつ、太陽風に対する磁気圏の振る舞いや流出大気の分布を調べる惑星科学の新手段を開拓することである。そのために、(1) 月付近の探査衛星による世界初の地球周辺の電荷交換X線の俯瞰的・広視野撮像に向けた独自の超軽量 Wolter I型X線望遠鏡の開発と宇宙実証を行い、(2) 既存の衛星データを用いた地球周辺の電荷交換X線の時空間構造モデルを世界で初めて構築する。望遠鏡開発では、約 10 名程度の開発チームを主導し、角度分解能の向上を目指した新プロセスの構築に取り組み、鏡の平坦性による形状精度と鏡の正確な配置による配置精度の両面において改善を達成した。さらに、反射率を上げるために欠かせない原子層堆積法を用いた Pt 膜付の新たな条件出しを行い、表面粗さの改善にも成功した。同時に、将来衛星の打ち上げを模擬した音響試験を実施し、環境耐性を確かめることにも貢献した。関連する成果は投稿論文や学会発表としてまとめており、発表賞も受賞した。衛星データ解析では、地球周辺の電荷交換X線が「すざく」と XMM-Newton 衛星で同時に受かっているイベントを系統探索するという新たなアプローチを行い、既存モデルによる発光強度予測が観測よりも明らかに低いことを見出した。同様に関連する成果は学会発表を行い、投稿論文としてまとめている最中である。
2: おおむね順調に進展している
本研究の目的である、地球周辺の電荷交換X線の解明と惑星科学への応用に向けて、(1) 探査衛星に搭載できる独自の超軽量 Wolter I型X線望遠鏡の開発と (2) 既存の衛星データを用いた大規模な系統解析を進めてきた。望遠鏡開発においては、超長時間アニールと化学機械研磨を複合した新プロセスの確立、高温塑性変形に用いる高精度プレス治具の改良、原子層堆積法による Pt 膜付の新たな条件出しを行い、従来を上回る角度分解能と衛星搭載の目標を満たす表面粗さを達成した。特に Pt 膜付に関する成果は Applied Physics Express 誌にレター論文として受理・掲載され、地球電磁気・地球惑星圏 (SGEPSS) 学会で学生発表賞「オーロラメダル」を受賞した。さらに、全工程を施した Wolter I型望遠鏡の 1・2段分を組み立て、実際の搭載検出器や可視光防護フィルタを含むハウジング・バッフル等に取り付けた状態で望遠鏡の音響耐性を確かめた。衛星搭載に向けて順調に開発が進んでいる。衛星データ解析においては、「すざく」と XMM-Newton 衛星の全公開データを用いた系統解析を進め、両衛星で同時に発光が受かっているイベントを同定した。太陽風フラックスで規格化した発光強度を既存モデルと比較した結果、発光強度予測が観測よりも明らかに低いことを見出した。COSPAR 国際会議等で口頭発表を行い、現在議論を深め、投稿論文を準備している。3次元的な地球周辺の電荷交換X線の時空間構造モデルの構築に向けて着実に進展している。
望遠鏡開発においては、搭載検出器や可視光防護フィルタを合わせた状態で所定のX線に対する目標性能を達成できるか確認し、望遠鏡の応答関数を構築する。既にハウジング・バッフル等の詳細設計は完了しており、必要に応じて、各製作プロセスにフィードバックしつつ、振動衝撃・熱サイクル・熱真空試験等を行い、環境耐性を確認する。衛星データ解析においては、名古屋大や東北大の惑星科学研究者と議論を深め、「すざく」と XMM-Newton 衛星の系統解析で得られた結果を投稿論文にまとめる。太陽風データを入力とした MHD シミュレーションを利用しつつ、3次元的な地球周辺の電荷交換X線の時空間構造モデルを完成し、望遠鏡の応答関数と組み合わせることで、将来探査に向けた観測見積もりを固める。
すべて 2021 2020
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (13件) (うち国際学会 4件)
Applied Physics Express
巻: 13 ページ: 087001
10.35848/1882-0786/aba7a5
Journal of Astronomical Telescopes, Instruments, and Systems
巻: 6 ページ: 025003
10.1117/1.JATIS.6.2.025003
Proc. SPIE (Space Telescopes and Instrumentation 2020: Ultraviolet to Gamma Ray)
巻: 11444 ページ: 114447E
10.1117/12.2560427