研究実績の概要 |
畏敬の念は、「既存の認知的枠組みを更新するような広大な刺激に対する感情反応」と定義され、その理解を超越した刺激入力は新たな意味体系の生成を駆動する(Keltner & Haidt, 2003; 中山,2020; Valdesolo et al., 2017)。本研究は、畏敬のこの意味生成の側面に着目し、畏敬が人間の自己・他者・世界の知覚にどのような影響を及ぼすのかについて、公正世界信念(この世界は秩序だっており、人はその人にふさわしい相応のものを得ているという信念)との関わりから検討した。 結果、畏敬は自己に関する公正世界信念(「私は私に値するものを得ている」)の低さと関連する一方で、他者に関する公正世界信念(「他者は他者に値するものを得ている」)の高さと関わることが明らかになった。これらの結果は、畏敬が自己にかかるスキーマを手放すとする知見(Takano & Nomura, 2020)と一貫するとともに、世界観の変容に伴う人間行動の理解の仕方に対する畏敬の作用が、自己と他者で異なることを新たに発見した。これらの成果をまとめた論文を執筆し、現在国際学術誌に投稿中である。 また、畏敬の念とかかわりの深いスピリチュアリティについて、祖霊崇拝と自然崇拝の共通性と相違に着目し、権威主義との関わりを検討した。 結果、祖霊崇拝は権威主義の服従的側面(確立された権威に従い、忠誠心を持つ側面)と正に、自然崇拝は因習主義的側面(伝統や格式を重んじるために、対立価値観を否定する側面)と負に関連することが、相関・実験研究によって新たに明らかになった。これらの成果をまとめた論文についても現在国際学術誌に投稿中である。
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