本課題の目的は、耕作放棄と圃場整備が鳥類多様性に与える影響になぜ地域差があるかを明らかにし、農地景観における効率的な生物多様性保全策を提案することである。2021年度の5月から8月にかけて、佐賀県・福岡県・長崎県・岡山県・香川県・徳島県・茨城県・千葉県・宮城県・北海道の99地点において、各箇所3回の鳥類および植生調査を実施した。2019年度から2021年度にかけて実施した全国規模の鳥類調査、および階層群集モデルを用いた解析結果から、耕作放棄と圃場整備が鳥類多様性に与える影響の地域差を駆動する要因について、新たな仮説を提示した。具体的には、群集を優占する機能群(湿原性・草原性・森林性・裸地性・水辺性種)が地域により異なることによって、未圃場整備・圃場整備水田・耕作放棄地間の群集全体の種数・個体数の大小関係に違いが生じたと考えた。機能群に着目して群集の応答を解析することで、農地景観における将来の景観・管理の変化による生態学的な帰結や保全策の有効性をより高精度で予測できるようになるかもしれない。 また平野部の耕作放棄地では、湿原・草原性鳥類の種数・個体数が、自然湿原に匹敵することを見出した。山地の耕作放棄地では、森林性鳥類の種数・個体数が森林に匹敵するか、森林よりやや少ないことを明らかにした。これらの結果から、耕作放棄地の鳥類の生息地としての価値は、地理的要因によっても変わることが示唆された。農地の拡大によって、湿原性生物はこれまでに大幅に個体数を減少させた可能性が示唆されている。平野部の耕作放棄地に湿原性生物の生息地としての価値を見出すことで、これら生物の保全を促進できる可能性がある。さらに、耕作放棄地の生息地としての価値は、時季によっても異なりうる。繁殖期には北日本の耕作放棄地で、越冬期には南日本の耕作放棄地で鳥類の群集規模の種数、個体数が多かった。
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