研究課題/領域番号 |
19J20961
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
沼澤 結 東北大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | 数値流体力学 / 固気反応 / 多孔質体 / 製鉄業 / 拡散 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,数値シミュレーションを用いて現在開発されている水素還元高炉において生産効率を維持可能なコークスの構造を特定することである.1年目(令和元年度)は,物質移動をともなうコークスのガス化反応シミュレーションの構築に注力した.それに加えて,その数値シミュレーションの妥当性を検証するため,シミュレーションに用いるX線CT像のサンプルとするコークスのガス化実験を行い,得られた反応速度および反応後のコークスの構造を数値シミュレーションと比較した.結果として,CO2ガス化反応において我々の数値シミュレーションは反応率および反応後の構造が実験結果と良好に一致し,数値シミュレーションが実現象に即していることを示した.さらに,コークスの構造変化の温度依存性を定量的に検討するため,1373 K, 1573 K, 1773 Kおよび1973 Kにおいて数値シミュレーションを行い,反応によるコークスの構造変化の温度依存性を定量的に検討した.コークス内部の局所気孔率の分散を構造の不均一性と定義することで,反応による構造の不均一性の変化割合と反応温度とに相関が見られることがわかった.また,コークスは多孔質体であり,その内部の物質移動が拡散に支配されるため,数値シミュレーションの支配方程式における拡散の取り扱いについても検討した.具体的には,単純な系にて多成分系の拡散現象を記述可能なStefan-Maxwell式とこれまで使用してきたStefan-Maxwell式の近似式とを比較した.結果として,質量保存則が成り立つように補正するCorrection velocityを近似式に用いた場合には両者には大きな差がなく,Correction velocityを用いることで多成分系の拡散現象を高精度かつ低計算コストで記述可能であることを明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は5ステップから構成され,その5ステップは(1)物質移動をともなうコークスのガス化反応シミュレーションの構築,(2)実験によるシミュレーションの妥当性の検証,(3)気相反応モデルの選定とその導入,(4)破壊解析モデルとの練成ならびに(5)構造の最適化に向けたケーススタディである.申請書にて,1年目(令和元年度)に(1),(2)および(3)の選定までを検討し,2年目(令和2年度)に(3)および(4)を検討したうえで,3年目(令和3年度)に(5)を実施する予定としていた.実際に,令和元年度は(1)および(2)を概ね計画通り実施し,(3)については気相反応モデルの選定に着手するところまで実施した.具体的には,(1)については当初予定していなかった数値シミュレーションの拡散項の検討を行い,この検討に時間を要した.しかしながら,この検討は重要であり,これまで用いてきたStefan-Maxwell式の近似式がStefan-Maxwell式と大きな差がないことがわかった.(2)では,研究室保有の試料吊り下げ式の反応炉や東北大学保有のX線CT装置を用いたことで予定よりも短時間で実施可能であった.また,(3)については,詳細化学反応機構に基づくより低計算コストな手法の選定を行っており,少し時間を要しているが,今後の計算時間を左右するために慎重に判断していきたいと考えている.総じて,(2)が予定よりも順調に進行したために大きな遅れとはならず,比較的計画どおりに進展していると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
これまでは,コークスのガス化反応モデルの構築とその検証に注力してきた.今後は,(3)気相反応モデルおよび(4)圧縮破壊モデルの導入を行い,そのうえで最終的な目標である(5)構造の最適化のケーススタディを行う予定である.(3)気相反応モデルについては,詳細化学反応機構に基づいたテーブル化を検討しているが,数値シミュレーションに導入した際にメモリが膨大になることを懸念している.そのため,水性ガスシフト反応に着目し,詳細化学反応機構に基づいて関数化し,メモリの問題を解消することも考えている.(3)が完了した後,研究の対象である水素還元高炉内を想定したガス雰囲気においてガス化実験を行い,その実験と数値シミュレーションを比較する.この結果をまとめ,コークスのガス化反応モデルが幅広く適用可能であることを世界に発信する予定である.また,(4)は破壊解析モデルと流体解析とを練成させる.現状,破壊解析には研究室保有の計算コードを使用する予定である.破壊解析の計算負荷は流体解析と比較して大きいため,練成する際には破壊解析におけるコークスモデルの解像度を低下させるなどの計算負荷を低減する施策を講じる必要がある.最終的な目標である(5)構造の最適化のケーススタディは任意の構造を持つコークスモデルを仮想的に作成し,構築した流体と破壊の連成解析を行い,その構造を修正し,破壊されにくい構造を見いだす予定である.
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