研究課題/領域番号 |
19J21000
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
中畑 裕 京都大学, 情報学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | アルゴリズム / グラフマイナー / グラフアルゴリズム / 列挙アルゴリズム / 二分決定グラフ / ZDD |
研究実績の概要 |
部分グラフの列挙は,計算機科学における基本的問題である.本研究では,ゼロサプレス型二分決定グラフ(ZDD)を用いた部分グラフ列挙手法に関して,様々なグラフクラスに共通する禁止マイナーによる特徴づけに注目し,ZDDを構築できる部分グラフの種類を飛躍的に拡大することを目的としている.本年度は,本研究の主なテーマである禁止マイナーで特徴づけられる部分グラフの列挙(1)に加え,ZDDよりコンパクトなデータ構造であるゼロサプレス型項分岐決定グラフ(ZSDD)を用いた部分グラフ列挙手法(2),並びにZDDによる部分グラフ列挙の応用(3)の3点について研究を行った. (1)に関しては,禁止マイナーの特殊例であるトポロジカルマイナーに注目することで,平面的グラフ,外平面的グラフ,直並列グラフ,カクタスグラフといった様々な重要なグラフクラスに対して,統一的な列挙アルゴリズムを与えることができた.計算機実験の結果,提案法は愚直なバックトラック法と比較して最大122544倍高速に,与えられたグラフのすべての平面的部分グラフを見つけることができた.また,提案法は1500頂点8993辺のグラフに含まれる7.95×10^1349個の平面的部分グラフの集合を表すZDDを405秒(7分未満)で構築することができた.これらの結果は,提案法が愚直なバックトラック法より大きなグラフを扱え,かつ解の個数が非常に多い場合にも対処できることを示している. (2)に関しては,提案法により,ZDDを使う既存法よりも最大7898倍高速にZSDDを構築できた.さらに,構築されたZSDDはZDDより最大476倍小さく,メモリ効率もよい. (3)に関しては,多状態ネットワーク信頼性評価において,既存法より最大723倍高速な手法を提案した.また,幾何グラフの列挙における既存法の計算量を理論的に改善できた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究実績の概要に記載した通り,当初の計画以上に多くの研究成果を挙げることができた.業績(1)に関してはアジア地区で著名な国際会議WALCOM2020に,業績(2)に関しては世界的に著名な国際会議SEA2020に論文が採択されている.このように,初年度から2件の国際会議論文採択が決まった.国内の研究会でも複数の発表を行っており,来年度の国際会議採択,論文誌採択につながると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
業績(1)に関しては,マイナーの特殊例であるトポロジカルマイナーを扱っていたが,これを一般のマイナーに拡張することで,さらに多くの部分グラフを統一的な枠組みで扱えるようする.また,提案法をより実用的なものにするために,高速化やメモリ効率の改善について検討する. 業績(2)に関しては,ZSDDを用いることでZDDを用いる既存法よりも高速かつ省メモリなアルゴリズムを実現できることがわかったので,ZSDDでマイナーを扱う方法についても検討したい. 業績(3)に関して,ネットワーク信頼性評価にZDDを用いる研究は,二状態ネットワークに対しては盛んに行われてきたが,多状態ネットワークに対してはあまり研究されてこなかった.多状態ネットワークはネットワークのより現実に近いモデルとして信頼性分野で盛んに研究されており,本研究の成果はZDDの多状態ネットワークへの応用のさきがけとなるものであるので,さらなる効率化に向けて検討を進めたい. 本年度は新型コロナウイルスの影響により,研究活動に制約を受ける恐れがあるが,他の研究者と直接会っての議論が難しい分.論文誌採択に向けた論文執筆などを精力的に進めていく予定である.
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