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2020 年度 実績報告書

フラストレーション系における量子スピン液体の解明

研究課題

研究課題/領域番号 19J21017
研究機関京都大学

研究代表者

村山 陽奈子  京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)

研究期間 (年度) 2019-04-25 – 2022-03-31
キーワードループ電流秩序 / イリジウム酸化物
研究実績の概要

本年度は、以前から進めていたイリジウム酸化物Sr2Ir1-xRhxO4の磁気異方測定の結果を解析し、Physical Review X誌にまとめて発表した(H. Murayama et al., PRX 11, 011021 (2021).)。Sr2IrO4では強いスピン軌道相互作用によってモット絶縁体状態が引き起こされる。Rhをドープすることによってスピン軌道相互作用が弱められ、モット絶縁体状態が抑制される。モット絶縁体に近接して現れる隠れた秩序相では銅酸化物高温超伝導体の擬ギャップと似た現象がいくつも観測されてるものの、その微視的な機構は明らかになっていなかった。この物質について微小カンチレバーを用いた磁気トルク測定により、隠れた秩序相で磁気異方性が出現することを観測した。これは隠れた秩序相が回転対称性の破れた熱力学相であることを示している。共同研究者による弾性抵抗測定の結果や先行研究を合わせて議論することで、隠れた秩序相は回転対称性の破れだけでなく、空間反転対称性の破れと時間反転対称性の破れも伴う電子秩序相であることを明らかにした。この微視的機構として、長年銅酸化物高温超伝導体で議論されてきたループ電流状態を提案した。原子間に流れるナノループ電流とその電磁誘導によって引き起こされる磁化が作る電磁場は、長年原子核物理などの他分野で議論されてきたアナポールと呼ばれるものである。隠れた秩序相では、このアナポールの向きが揃ったアナポール秩序の出現によって回転対称性の破れが引き起こされると考えられる。
さらに、4月-8月はマサチューセッツ工科大学のCheckelskyグループに滞在し、トポロジカル物質合成に取り組んだ。新型コロナウイルスの蔓延によって実験室への立ち入りが制限されたが、密度汎関数理論に基づいたバンド理論計算を行うなど、数値計算に取り組むことで研究を進めた。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

本年度の研究成果であるイリジウム酸化物の隠れた秩序相における回転対称性の破れは、磁気トルク測定による磁気異方性の検出によって発見された。磁気トルクは微小カンチレバーによって測定されており、従来の超伝導量子干渉計を用いた磁気測定と比べて数千倍高い感度を実現した。過去には同測定手法により銅酸化物高温超伝導体の擬ギャップでも回転対称性の破れを観測しており、擬ギャップ状態が電子ネマティック秩序相であることを明らかにしてきた(H. Murayama et al., Nature Commun. 10, 3282 (2019).)。本研究者によって確立されてきたこの手法は量子スピン液体候補物質における回転対称性の破れの検出に応用できる。とくにカゴメ格子上の量子スピン液体候補物質ZnCu3(OH)6Cl2(Herbertsmithite)では、キュリー温度~170 Kと同程度の温度で回転対称性の破れが発達する様子が報告されており、回転対称性の破れた量子スピン液体が実現しているのではないかと議論されている。回転対称性の破れた量子スピン液体状態は実際の物質では見つかっていないため、磁気トルク測定による磁気異方性検出によって熱力学量における回転対称性の破れを議論し、この状態を明らかにしたい。

今後の研究の推進方策

現在カゴメ格子上の量子スピン液体候補物質であるZnCu3(OH)6Cl2(Herbertsmithite)において、比熱および熱伝導測定を進めている。この物質は50mKまで長距離秩序やスピンの凍結する様子が観測されておらず、基底状態が量子スピン液体だと考えられている。しかし、その低エネルギー励起ではZnとCuのアンチサイト欠陥に起因した励起の寄与が大きく、量子スピン液体の分数励起におけるギャップの有無はよくわかっていない。この物質における量子スピン液体の性質を明らかにするためには、低エネルギー励起におけるランダムネスの効果を理解することが不可欠である。Herbertsmithiteにおいて比熱測定を行い、1T-TaS2で観測されたスケーリング則がカゴメ格子上の量子スピン液体候補物質でも普遍的に成り立つのか調べる。この系ではアンチサイト欠陥に由来したショットキー比熱も観測されると考えられ、ショットキー比熱とスケーリング則を示すスピン励起による比熱を区別するために解析方法を工夫する必要がある。さらに、この系では遍歴的なスピノン励起の存在が期待されているものの、ランダムネスに由来した局在的なスピン励起との区別が難しく、その存在の有無はよくわかっていない。そのため、遍歴的な励起のみを検出できる極低温熱伝導測定により遍歴的なスピン励起を調べる。さらに、同物質について磁気トルク測定による磁気異方性の検出を行い、回転対称性の破れを熱力学量によって検証し、対称性の破れを伴う量子スピン液体状態を議論する。

  • 研究成果

    (4件)

すべて 2021 その他

すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (2件)

  • [国際共同研究] University of Colorado, Bouldar(米国)

    • 国名
      米国
    • 外国機関名
      University of Colorado, Bouldar
  • [雑誌論文] Bond Directional Anapole Order in a Spin-Orbit Coupled Mott Insulator Sr2(Ir1-xRhx)O42021

    • 著者名/発表者名
      H. Murayama, K. Ishida, R. Kurihara, T. Ono, Y. Sato, Y. Kasahara, H. Watanabe, Y. Yanase, G. Cao, Y. Mizukami, T. Shibauchi, Y. Matsuda, and S. Kasahara
    • 雑誌名

      Physical Review X

      巻: 11 ページ: 011021

    • DOI

      10.1103/PhysRevX.11.011021

    • 査読あり / 国際共著
  • [学会発表] カゴメ反強磁性体Herbertsmithiteにおける比熱のスケーリング則2021

    • 著者名/発表者名
      村山陽奈子, 冨永貴弘, Andre de Oliveira Silva, 佐藤雄貴, 鈴木裕貴, 鵜飼柚希, 末次祥大, 笠原成, 笠原裕一, 大熊隆太郎, 廣井善二, Itamar Kimchi, 松田祐司
    • 学会等名
      日本物理学会 2021年年次大会
  • [学会発表] Bond directional anapole state in a spin-orbit coupled Mott insulator Sr2(Ir1-xRhx)O42021

    • 著者名/発表者名
      H. Murayama, K. Ishida, R. Kurihara, T. Ono, Y. Sato, Y. Kasahara, H. Watanabe, Y. Yanase, G. Cao, Y. Mizukami, T. Shibauchi, Y. Matsuda and S. Kasahara
    • 学会等名
      APS March Meeting 2021

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公開日: 2021-12-27  

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