研究課題/領域番号 |
19J21032
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
小坂 秀斗 九州大学, 工学府, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | 経皮ドラッグデリバリー / がんワクチン |
研究実績の概要 |
本研究は、塗り薬や貼り薬によって体内の免疫力を増強し、がんの予防や治療を行う経皮がんワクチンの開発を目的としている。免疫を惹起するには、がん抗原と呼ばれるタンパク質を皮膚内部に存在する皮膚樹状細胞へ送達する必要がある。しかし皮膚最外層には疎水性の高い角質層が生体のバリアとして存在しており、親水性かつ高分子量のがん抗原をそのまま皮膚内部へ浸透させることはできない。そこで本研究ではがん抗原の皮膚浸透促進技術の確立をめざし、経皮吸収促進機能を有する油状ナノキャリアの創成を試みている。具体的に、昨年度は①逆ミセル製剤を利用した経皮がんワクチンの開発、②液晶製剤を利用した経皮がんワクチンの開発、についての研究を行った。いずれの戦略においてもこれまで困難とされてきたがん抗原の皮膚浸透に成功しており、新たな経皮ドラッグデリバリーシステムの開発することができた。 ①について、昨年度は新規逆ミセル製剤の優れたワクチン効果を裏付ける免疫学的解析を行った。この成果をまとめ、筆頭著者として発表した論文がMolecular Pharmaceutics誌に掲載され、さらには表紙として採択された。 ②について、昨年度は液晶にがん抗原を封入させることで、その皮膚浸透性が大幅に向上することを見出した。さらには液晶のナノ構造と皮膚浸透性の相関を明らかにし、この研究成果をまとめた論文を、筆頭著者として執筆中である。 以上の研究成果を国内外の学会7件で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
昨年度は①逆ミセル製剤を利用した経皮がんワクチンの開発、②液晶製剤を利用した経皮がんワクチンの開発、についての研究を行った。①に関しては計画通りに進行し、筆頭著者として論文を投稿した。そして①の研究を行う中で、従来用いてきた経皮吸収促進剤よりもさらに効果が高い分子、glyceryl monooleate(GML)を見出した。GMLは水と混合すると容易に液晶構造を形成し、ゲル様の粘弾性特性を示すことが報告されている。これに着想を得て、昨年度は新たに②の液晶製剤を利用した経皮がんワクチンの開発に着手した。当初、液晶製剤の利用について予定はしていなかったものの、大幅にがん抗原の皮膚浸透性を向上させる有効な経皮デリバリーシステムであることが明らかとなった。このことから、当初の計画以上に研究が進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、液晶製剤を利用した経皮がんワクチンの開発に焦点を当て、研究を推進する。昨年度までの検討によって、両親媒性分子であるglyceryl monooleate(GML)を用いた液晶では水分量によって液晶の三次元構造を制御可能であり、その構造の違いが皮膚浸透性に影響することが明らかとなった。 そこで本年度はこの液晶製剤の経皮ワクチンとしての効果を評価する。具体的にはまずマウスに対して液晶製剤の経皮投与を行い、皮膚樹状細胞へのがん抗原送達量をフローサイトメトリーによって評価する。さらに皮膚樹状細胞を追跡し、リンパ節や脾臓への遊走、あるいは細胞傷害性T細胞の活性化をフローサイトメトリーやELISA法を用いたサイトカイン産生量測定によって評価する。最終的には腫瘍モデルマウスを用いて経皮免疫化を行い、腫瘍予防効果及び治療効果を評価する。 もし上記の評価において十分なワクチン効果が得られなかった場合は、抗原性の低さが原因として考えられる。本系では分子量数千Daの分子までしか液晶中に内包することができないため、抗原タンパク質の一部を切り出したエピトープペプチドをがん抗原に用いている。しかし一般的には抗原タンパク質をそのまま用いたほうが抗原性が高く、液晶製剤の適用範囲の拡大が課題となる。昨年度までの検討で、GML液晶にリン脂質を混合させると液晶構造が膨潤し、より高分子量薬剤も封入可能になることを見出している。よって抗原性の低さが問題となる場合は、GML-リン脂質液晶に抗原タンパク質をそのまま内包させ、上記の免疫学的評価を行う予定である。
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