本研究は、塗り薬や貼り薬によって体内の免疫力を増強し、がんの予防や治療を行う経皮がんワクチンの開発を目的としている。免疫を惹起するには、がん抗原と呼ばれるタンパク質を皮膚内部に存在する皮膚樹状細胞へ送達する必要がある。しかし皮膚最外層には疎水性の高い角質層が生体のバリアとして存在しており、親水性かつ高分子量のがん抗原をそのまま皮膚内部へ浸透させることはできない。そこで本研究ではがん抗原の皮膚浸透促進技術の確立をめざし、経皮吸収促進機能を有する油状ナノキャリアの創成を試みている。医療従事者を必要としないワクチン投与法の確立によって、患者のQOLの向上のみならずワクチン接種率の改善に寄与することが本研究の最終的な目的である。 これまでの研究において、経皮吸収促進効果を持つ脂質分子と水を混合すると容易に液晶を形成し、これがペプチド抗原の皮膚浸透性を飛躍的に改善することを見出している。さらに当該液晶構造の微細孔を膨潤させることで、より分子量が大きいタンパク質抗原の皮膚浸透性向上も可能となった。そこで2021年度は詳細な浸透メカニズムを検討すべく、この膨潤液晶製剤に対して分子量の異なるペプチドやタンパク質を封入し、薬物放出挙動を評価した。その結果、いずれのペプチドやタンパク質においても液晶の膨潤によって放出速度が向上しており、液晶の内部構造の膨潤に伴いタンパク質の拡散が速くなることが判明した。続いてマウス皮膚における経皮浸透量を定量し、タンパク質の経皮浸透量を拡散係数に対してプロットしたところ、良好な正の相関が認められた。以上の成果により、本研究は経皮ワクチンとしての膨潤液晶製剤を設計するための有効な指標を提供するものであると考えられる。 上記の成果はActa Biomaterialia誌ならびにACS Applied Materials & Interfaces誌に掲載された。
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