研究課題/領域番号 |
19J21046
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
荒木 真歩 神戸大学, 国際文化学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | 民俗芸能 / 太鼓踊り / 伝承 / 芸態変化 / 記譜 |
研究実績の概要 |
研究初年度は、民俗芸能の芸態変化の要因を文化人類学、民俗学、民族音楽学の先行研究から検証することから出発した。 文献だけではなく、神戸人類学研究会、日本民俗学会、京都民俗学会、日韓次世代学術フォーラム、東アジア人類学会等で芸態変化のバリエーションの下敷きとした奈良県の太鼓踊りの事例を報告した。人類学・民俗学の観点から知見を得て、芸態変化のバリエーションを探るだけではなく、なぜ様々な要因によって変化が起こるのかを深く掘り下げて追究し、芸能や音楽を(変化させても)伝承することについて、人文科学一般の議論へと検討可能なレベルでの検討を試みた。 実地調査では、予定通り三重県と滋賀県のカンコ踊り(太鼓踊り)の伝承方法の聞き取りや、練習の参与観察をおこなった。多くのカンコ踊りで少子高齢化によって担い手が減少し、次世代への伝承が難しくなっていることは多くのカンコ踊りで共通していた。その中で、それぞれの地域で記録の方法を模索していることが分かり、その記録媒体や方法によって芸態が変わる可能性が浮かびあがってきた。特に五線譜への記譜は記譜者によって笛や歌の音高、音価の記譜が異なり、芸態の変化装置となっていた。 また今年度の調査中に鹿児島県内に本研究が対象としていた太鼓踊りが多く存在することが分かり、鹿児島県内でも予備調査を始めた。その中でも日置市の伊作太鼓踊りと三島村硫黄島の八朔太鼓踊りの観察した。特に硫黄島の八朔太鼓踊りは西アフリカの伝統太鼓ジャンベdjembeを習いに島留学している人々も太鼓踊りの担い手となっており、新たな変化バリエーションの要素が垣間見られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の調査対象であった近畿地方の複数の太鼓踊り(カンコ踊り)を参与観察できたことにより、新たな芸態変化の要素として記譜を捉えられ、順調に芸態変化のバリエーションを検討できているため。また新たな要因を見出すだけではなく、バリエーションの下敷きとしていた変化の要因についても民俗学、人類学、民族音楽学の学会や研究会での報告を通して様々な意見を交わしたことで一つ一つをより深く検討することができた。 さらに鹿児島県の太鼓踊りとの出会いによって、調査対象の地域的な範囲が広がり、変化のバリエーションを精緻化した分析が見込めるため。
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今後の研究の推進方策 |
調査の途中より、鹿児島県鹿児島郡三島村硫黄島の八朔太鼓踊りの踏査をおこなったところ、これまで下敷きとしていた芸態変化の要因がほとんどあることが分かった。また本年度で新たに変化の要因として捉えられた、記譜もおこなわれようとしていた。硫黄島は人口約115人ほどの島嶼であり、芸態を変化してでもなぜ民俗芸能を伝承するのかという人文科学一般にも展開可能な根本的な問いを検討可能な場所であった。そのため、次年度の計画は関東地方の三匹獅子舞を対象に調査をおこなう予定であったが、当初の予定を変更して硫黄島に滞在しながら、島民の民俗芸能を伝承する様子を含めた生活に密着し、その中から芸能や音楽をおこない、伝承する営みについても調査を行う。 また2019年度では調査のデータをもとに分析し口頭や論文の形で発表があまり出来なかったため、今後は本研究の最終形態である博士論文に向けた発表、執筆も随時おこなっていく。
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