研究課題/領域番号 |
19J21046
|
研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
荒木 真歩 神戸大学, 国際文化学研究科, 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
|
キーワード | 民俗芸能 / 芸態の変化 / 太鼓踊り / 南西諸島 / 硫黄島 / 種子島 / 無形文化遺産 / 移住者 |
研究実績の概要 |
本年度は昨年度に引き続き、民俗芸能(特に太鼓踊り)の実践において歌・踊り・楽器の演奏など芸態の変化の要因を様々なアクターの関係から捉える試みをおこなった。昨年度までは近畿地方や東北地方の民俗芸能を対象に現地調査をおこなったが、民俗芸能の中でも特に注目して調査をおこなってきた太鼓踊りが鹿児島県下に多く存在し、かつアクター間の関係が比較的見えやすい小規模の離島に絞り、現地調査をおこなった。具体的には鹿児島県鹿児島郡三島村硫黄島と鹿児島県熊毛郡種子島にて調査を行った。 調査方針としては芸態の変化の要因を芸能に直接関係する様々なアクターの関係から捉えるだけではなく、芸能の練習や奉納当日など芸能の場面以外にも、演者やそれ以外の人々との日常の人付き合い、その地域の生活環境、人々の仕事上の付き合いや仕事の向き合い方などが間接的に芸能の芸態の変化やその実践に影響を与えていることが昨年度の調査より浮かび上がってきた。これは芸能に関する短期的な調査では見えにくいため、本年度の調査は8月から11月まで硫黄島、3月に種子島に長期滞在し、これらの側面からも調査をおこなった。 離島での調査以外には鹿児島県内で鹿児島の民俗芸能研究者やその他の民俗学者と議論を交わしたり、鹿児島県立図書館で資料収集をおこなった。12月には京都民俗学会にて硫黄島の八朔太鼓踊りを事例に多様な背景を持つ演者たちがどのように演者として選ばれ共に演じるまでに至ったのかについて現地調査内容をもとに発表した。 また本年度は新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い、全国各地で芸能や祭りの中止が相次ぎ、現地調査も困難になった。今後の調査のあり方について、文化人類学者や民俗学者とコロナ禍での硫黄島の長期調査の事例を報告しながら議論を進めた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究計画当初は硫黄島の長期調査を5月より行う予定であったが、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い、県境をまたぐ移動や離島への入島制限が設けられ、入島が予定通り出来なかったことが遅れている理由である。その後、三島村役場との交渉の結果、8月より入島できたものの、予定していた南西諸島間の島の移動は困難であり、硫黄島にとどまることとなった。また種子島での調査においては入島制限があったのと同時に、島内の民俗芸能のほとんどが開催中止となり、こちらも予定していた調査は十分にはおこなえなかった。 現地調査の予定は大幅に変更を余儀なくされたものの、入島できない期間に南西諸島の芸能に関する資料収集をおこなったり、論文を執筆することは進んだ。また硫黄島での現地調査も予定よりも短い滞在になったものの、新型コロナウイルスの影響で芸能を開催するかどうかの話し合いが島内でなされ、条件付きで開催されるなど、例年では見られなかった島民同士の言動から、民俗芸能の実践の特徴が浮き彫りになる形となり、新たな発見を得るきっかけともなった。 全体として、現地調査の計画は予定よりも大幅に遅れているが、その間に計画通りの資料収集がおこなえたことや、新型コロナウイルスの感染拡大によって新たな気づきを得られたこと、学会発表等をおこなえたことから、やや遅れていると評価する。
|
今後の研究の推進方策 |
来年度は鹿児島市内に拠点を置き、10月頃まで南西諸島の現地調査をおこなう。これは本年度の現地調査が新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、計画当初よりも現地調査がおこなえなかった分を補うためである。しかし来年度も感染状況を鑑み、計画通りの現地調査がおこなえない可能性があることを理解しつつ調査を進める。本年度は南西諸島のほとんどの芸能が開催中止に追い込まれたが、来年度はおこなうことを前向きに検討している芸能の団体もあると聞いている。そのため緻密な予定を4月時点で組み立てることは難しいが、芸能の開催状況を把握しながら、現地調査の予定を立てていく。現時点では7-8月に種子島の盆踊り調査、8月下旬の硫黄島での八朔太鼓踊りの調査をおこなえる目途が立っている。それ以外の期間に、硫黄島以外の三島村(竹島・黒島)、十島村、屋久島、喜界島、奄美大島を対象に現地調査を計画している。 万が一、入島が難しい場合は、現地の人とのオンライン上でビデオ通話での聞き取り調査や映像資料の収集をおこなう。島内での調査は演者を中心とした聞き取り調査や、芸能の練習の参与観察だけではなく、引き続き、芸能以外の場面(演者やそれ以外の人々との日常の人付き合い、その地域の生活環境、人々の仕事上の付き合いや仕事の向き合い方など)での参与観察や聞き取り調査をおこなう。資料収集については、国立国会図書館や鹿児島県立図書館ではおおむね進んでいるため、離島にある郷土資料館や図書館等でローカルな資料の収集を行う。 現地調査終了後は、聞き取り調査のデータ起こしなど、データの整理を行う。12月には民俗芸能学会、東京都立大学社会人類学研究会での発表を予定している。1-3月には集中的に調査内容をもとに論文を執筆し、日本民俗学会の機関誌へ投稿を予定している。
|