研究課題/領域番号 |
19J21063
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
吉原 康平 九州大学, 薬学府, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | 青斑核 / 脊髄後角 / アストロサイト / ストレス / ノルアドレナリン / Ca2+イメージング / 疼痛 |
研究実績の概要 |
ストレス反応は生体に重要な機能の一つであり、疼痛など様々な生体機能に影響を及ぼす。一方で、慢性疼痛において、ストレスが痛みを憎悪させることも知られており、ストレスによって生じる感覚過敏化メカニズムの解明が強く望まれている。本研究では、青斑核ノルアドレナリン作動性神経(LC-NA神経)および脊髄後角アストロサイト亜集団(Hes5陽性)に着目し、ストレスによる過敏化に対する役割の解明を目的とする。H31年度は、①慢性ストレスによって生じる過敏化を評価する実験系の確立、②下行性LC-NA神経を特異的に機能制御する手法の確立、③Hes5陽性アストロサイトの機能解明を行った。 ①LC-NA神経を活性化し、不安行動を誘発することが報告されている拘束ストレスを採用した。同ストレスの慢性処置によって、軽度機械刺激に対する過敏応答、LC-NA神経の活性化が生じることを確認した。 ②アデノ随伴ウイルスベクターによる遺伝子導入技術を用いた。神経細胞に逆行性に感染するカプシドを用いて、脊髄後角に投射する神経細胞に組換え酵素creを発現させ、creの発現依存的に目的遺伝子を発現するウイルスベクターを青斑核に投与することで、下行性LC-NA神経特異的な遺伝子導入に成功した。上記の手法を用いて、下行性LC-NA神経特異的にhM3Dqを発現させ、同神経を人為的に活性化したところ、NAシグナル依存的な脊髄後角アストロサイトのCa2+シグナル、および軽度機械刺激に対する過敏応答が生じた。 ③脊髄後角のin vivo Ca2+イメージングによって、Hes5陽性アストロサイトが下行性LC-NA神経から放出されるNAを受容し、Ca2+シグナルを誘発することが明らかになった。また、脊髄腔内へのNAの直接投与による過敏応答が、Hes5陽性アストロサイトを介していることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ストレスモデルおよび評価系の確立、下行性LC-NA神経の機能を特異的に制御する実験系の確立に成功した。これらの実験系を用いることで、感覚の過敏化に対して、下行性LC-NA神経ならびにHes5陽性アストロサイトが重要な機能を有している可能性を示した。以上より、当初の研究計画で予定していた、下行性LC-NA神経の活動制御メカニズムの解明は達成できていないものの、2年目、3年目に実施予定の、脊髄後角アストロサイトのCa2+シグナル経路の同定、ならびにHes5陽性アストロサイトの感覚制御に及ぼす影響の解明という課題に関しては、十分に研究が進展したと考える。また、得られた成果の一部は、論文として国際科学誌へ投稿中である。よって、本研究課題はおおむね順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
下行性LC-NA神経の機能制御を行った際のストレスによる過敏化への影響を検討し、下行性LC-NA神経の役割を明らかにする。また、Hes5陽性アストロサイトの機能を特異的に制御可能なマウス(Hes5-CreERT2マウス)など遺伝子改変マウスを用いて、同亜集団の感覚鋭敏化に対する役割を調べる。さらに、ストレス反応に重要な脳領域に着目し、下行性LC-NA神経の活動を調節するメカニズムを明らかにする。
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