研究課題/領域番号 |
19J21096
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研究機関 | 甲南大学 |
研究代表者 |
杉本 渉 甲南大学, フロンティアサイエンス研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | がん / p53 / アクチン / 抗がん剤耐性 / DNA損傷 / メカニカルストレス / actin / DNA damage |
研究実績の概要 |
これまでの研究によって、がん抑制遺伝子p53の活性が低下した細胞に抗がん剤処理を行うと、細胞核内にアクチンの特徴的な構造体である、核アクチンファイバーが形成されることを見出してきた。核アクチンファイバーの構造や機能、形成分子機構などについて詳細に明らかにすることで、核アクチンファイバーを標的とした、より高い治療効果が期待できる新たながん治療法への応用を目指して研究を進めている。核アクチンファイバーの構造においては、共焦点顕微鏡とTEM(透過型電子顕微鏡)を用いて、核アクチンファイバーを形成している細胞核をCLEM(光-電子相関顕微鏡)法を用いて解析を行い、核アクチンファイバーの構造的特徴の一端を明らかにすることに成功した。また、マイクロニードルを用いた核アクチンファイバー形成核の物性評価も行っており、核アクチンファイバーの形成が核の硬さには影響を与えないことや、クロマチンとの関連性を示唆するデータを得てきた。これらの結果から、細胞内で形成される核アクチンファイバーは遺伝子発現の制御を介して、抗がん剤感受性に寄与していることが考えられた。 そこで現在は、核アクチンファイバーの形成に関わる分子を特定することによって、形成を制御する方法について探索を行なっている。そのためにまず、特定の遺伝子の発現抑制や阻害剤などの薬剤添加による、核アクチンファイバー形成への影響を統計的に解析する方法について確立した。この解析法をもとに、特定の遺伝子発現抑制や阻害剤などの薬剤添加における核アクチンファイバー形成の有無を調べていくことで、核アクチンファイバー形成に関わる分子やその形成メカニズムを詳細に明らかにしていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は、新型コロナウイルス感染症流行の影響で登学や出張の禁止、勤務時間の大幅削減など、研究活動が大きく制限された。当初予定していた、マイクロニードルを用いた核の引っ張り実験などにおいては、専用の機器が必要であったため出張が禁止されている中では遂行できなかった。そこで本年度は、核アクチンファイバー形成メカニズムの解明に関する研究を重点的に進めた。まず、画像解析ソフトを用いて核アクチンファイバーを形成している細胞の割合を統計的に算出する方法を確立し、特定の遺伝子の発現制御や、阻害剤などの薬剤添加などによる核アクチンファイバー形成への影響について解析を行った。核アクチンファイバーは、がん抑制遺伝子であるp53の活性が低下している細胞に抗がん剤処理を行う事で形成されるが、p53がどのように核アクチンファイバーの形成に寄与しているのかについては未知であった。そこで、p53の発現量を抑制した細胞に対して、過剰にp53を発現させ、核アクチンファイバーの形成に影響を与えるのか確認したところ、p53を発現する細胞では、核アクチンファイバーの形成が顕著に抑制された。また、p53の活性依存的に活性が変わるものとしてカスパーゼに注目した。カスパーゼは、細胞内で種々の刺激やストレスによって活性化されるタンパク質分解酵素であり、タンパク質の切断を介してアポトーシスによる細胞死を実行することが知られている。カスパーゼ阻害剤を用いてカスパーゼの活性を抑制すると、抗がん剤処理だけでは、核アクチンファイバーの形成が見られなかったp53の活性が低下していない細胞においても核アクチンファイバーを形成する細胞の割合が顕著に増加した。そのため、p53はカスパーゼの活性化を介して、核アクチンファイバーの形成に寄与する可能性が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で、核アクチンファイバーの形成はp53の活性とそれに伴うカスパーゼの活性化により制御されている可能性が示唆された。今後は、核アクチンファイバーの形成制御に関係するカスパーゼの特定と、そのカスパーゼの標的分子についてより詳細に解析を進める事で、核アクチンファイバーの形成に関わる分子について明らかにしていく。カスパーゼの特定においては、各種阻害剤を使用する事で問題なく明らかにできると考えられるが、カスパーゼ以外でp53が制御している別のシグナル経路についても阻害剤等を用いて、核アクチンファイバーの形成に関与していないかどうかを確認していく。それらによってp53依存的に核アクチンファイバーの形成が制御されているメカニズムについて明らかにし、抗がん剤耐性を有するがん細胞に対しても有効な治療法の確立を目指す。
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