研究課題/領域番号 |
19J21117
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
森 竣祐 東北大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | 多形体 / 半導体 / 不揮発性メモリ / 変位型相転移 |
研究実績の概要 |
スパッタリングによって成膜したMnTe薄膜が、熱処理によってβ相(ウルツ鉱型)からα相(NiAs型構造)へと相転移することが確認され、それに伴いMnTe薄膜の電気抵抗と光学バンドギャップが大きく減少した。 メモリ特性の発現可否を検証するため、MnTeを情報記録層としたメモリ素子を作製した。メモリ素子に電気パルスを印加したところ、低電気抵抗なα相は2-3桁程度の抵抗の増加を示し、かつその電気抵抗変化は可逆的に生じた。この電気抵抗変化は、10ナノ秒程度の極めて短いパルス幅においても確認され、超高速なスイッチングが可能であることが示された。ジュールの法則によりメモリ動作に要した熱エネルギーを計算したところ、現在実用されているGe-Sb-Te系化合物の1/10以下であると見積もられ、MnTeは非常に省エネルギーでスイッチングすることが分かった。 MnTe薄膜の相転移メカニズムを解明するために、集束イオンビーム法によって高抵抗化したメモリ素子を薄片化し、透過型電子顕微により断面組織の観察を行った。相転移境界近傍の格子像を観察したところ、α相から相転移した高抵抗な相はβ'相と呼ばれる、β相とは僅かにTe原子の配置が異なる構造であると解析され、相転移はMnおよびTe原子の二層おきの連携的なズレにより生じることを提案した。この様な相転移は変位型相転移と呼ばれ、その進行速度は固体中の音速にも匹敵すると言われている。MnTe化合物の高速相転移は変位型相転移によるものであり、Ge-Sb-Te系化合物と比較して融解を必要とせず原子の僅かなズレにり相転移するため、メモリ動作のエネルギーも極めて低減されると示唆された。この様な変位型相転移はレーザー照射にによっても生じ、25 %程度の光学反射率変化を示すため、フォトニックメモリ等の光デバイスへの応用の可能性も示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は、MnTe薄膜の多形転移メカニズムを解明するために、透過電子顕微鏡による格子像観察や電子線回折による解析を詳細に行った。その結果、原子の僅かなズレによって生じる変位型相転移であることが発見され、多形体の相転移メカニズムについて重要な知見を得るに至った。 従来の相変化材料は、アモルファス/結晶間の相変化による物性変化を用いるが、本研究におけるMnTe多形体薄膜は、融解を必要としない原子の僅かなズレで生じる変位型相転移であるため、極めて高速かつ省エネルギーなメモリ動作が可能という特徴を持つ。また、メモリ素子の電気抵抗変化のみではなく、パルスレーザー照射による光学反射率の変化も確認された。多形体の変位型相転移に伴う物性変化を実現したことは、次世代型相変化材料の設計に新たな指針を与える成果である上に、一般的なスパッタリング技術で成膜が可能なため実用にも期待が持てる。以上より、計画以上に進展したと評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
MnTe薄膜を用いたメモリ素子は、極めて高速かつ省エネルギーな動作性能を示すものの、その繰り返し回数は400回程度と、実用には一層の改善が求められる。今後の対策としては、デバイス構造の改善が重要であり、耐久性の向上を可能とする素子設計に取り組む必要がある。 一方でMnTe薄膜は、ジュール加熱による電気抵抗変化のみではなく、パルスレーザー照射により大きな光学反射率変化を生じることも分かった。このような特徴から、相変化型のフォトニックメモリや光学センサ等のフォトデバイスへの応用も期待される。また、多形転移のメカニズムを調査する過程で、その相転移は熱ひずみにより誘起されることが示唆される。そこで、MnTe薄膜が様々な外場(温度、力、光など)に対してどのような応答を示すのかを調査し、様々なデバイスへの応用について検討する。
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