研究課題/領域番号 |
19J21142
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
一ノ瀬 遥太 首都大学東京, 大学院理学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | 単層カーボンナノチューブ / 熱電変換現象 / 一次元電子構造 / 電気二重層キャパシタ |
研究実績の概要 |
柔軟で高効率な熱電変換材料の開発は、持続可能な社会を実現する上で重要だ。変換性能を表すパワーファクタと呼ばれる物理量は、ゼーベック係数と電気伝導率の積で示されるため、これら物性値を同時に大きくすることが求められる。しかし、従来の半導体熱電変換材料においては、電気伝導率を増大させるとゼーベック係数が減少するというトレードオフの関係が存在し、パワーファクタの向上を阻む問題であった。本研究では、この課題を解決しうる材料として単層カーボンナノチューブ(SWCNT)に着目した。SWCNTに代表される一次元材料は、電子構造内に状態密度が発散するファンホーブ特異点を持つ。この点近傍に化学ポテンシャルを合わせることで、ゼーベック係数と電気伝導率を同時に増大させることが可能であると予想した。高純度に分離した半導体型と金属型のSWCNT薄膜試料を用意し、電気化学ドーピング手法によって、試料の化学ポテンシャルを精密に制御しながら熱電物性を測定した。その結果、金属型SWCNT薄膜において、上記トレードオフを破る現象を観測した。シミュレーションと物性値を比較したところ、観測した現象を再現することに成功し、この同時増加が一次元材料特有のファンホーブ特異点由来であることを解明した。一次元性による熱電物性の増大については、1993年にヒックスらよって理論的な予想がされて以来、実験的に確認できた例はなく、本研究によって初めて観測された。本研究課題における独創的なアプローチである、高純度試料・精密な化学ポテンシャル制御・配向制御膜を組み合わせることで、SWCNT薄膜系の熱電物性を解明できることを当該年度に示すことができた。したがって、現在のアプローチで研究を進めることは、本研究目的であるホッピング伝導系の熱電物性解明を達成させる上で極めて有効であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初予定していた研究計画を概ね滞りなく遂行できたことに加え、想定以上の発見を実験によって得られたため、上記の進捗状況と判断した。まず当該年度の研究計画の通り、高純度分離したSWCNTの配向薄膜を獲得する段階から始めた。アメリカのライス大学にて開発されたSWCNTを一方向に配向させる技術の再現を行った後、独自に得ていた世界最高水準の高純度SWCNT試料を配向させる条件を見出すことに成功し、高純度かつ高配向なSWCNT試料を獲得した。ここまで計画通りである。物性測定においては、高純度な金属型SWCNTを配向した試料において、熱電物性が一次元性により大幅に増大することを、実験と理論の両面から解明した。電子構造と配向SWCNT薄膜の熱電物性の関係を明らかにすることが当初の計画であったため、測定についても計画通りに進めることができた。さらに、高純度な半導体型SWCNT薄膜において、熱電伝導率L12と呼ばれる物理量の化学ポテンシャル依存性を測定したところ、こちらについても一次元電子構造にのみに予想される振る舞いを観測した。当該年度において、複数の種類のSWCNTに対して、その一次元熱電物性を明らかにできると想定していなかったため、期待以上の進展であると評価できる。この現象についても、再現性の確認を行い、理論との比較を行うことで、SWCNTにおいて観測されうる一次元的な熱電物性であることを立証する。学会発表と論文発表においては、国内外で複数発表することができたため、発見した知見を社会に周知するという使命を概ね果たすことができた年度であると評価する。
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今後の研究の推進方策 |
獲得した試料の温度依存性を測定することで、本研究目的を達成することを目指す。当該年度においては、本研究の独創的なアプローチを用いて、高純度かつ高配向な試料を獲得することができた。さらにもう一つのアプローチである精密な化学ポテンシャル制御を室温において実行することができた。したがって、本研究の骨組みである三つのパラメータの精密制御が可能な段階に達することができた。本研究の目的である、ホッピング伝導系の熱電物性機構を解明するためには、次の段階として温度依存性を測定する必要があると考える。現状の試行実験として温度依存性を測定していたが、デバイスの不安定性が問題である。複数回の冷却を行うと、デバイスが破損し、再現性が確保できない。したがって、デバイス構造の改善を行うことが目下の課題であると考える。対応策として、化学ポテンシャル制御に使用しているイオン液体の体積変化を極力小さくするために、イオン液体の使用量を減らす方策を検討している。そのために、デバイス上の温度測定のために従来用いていた熱電対の使用を止めて、金を蒸着した線の抵抗の温度変化によって温度を測定するデバイス構成を新たに構築する予定である。温度依存性を再現良く測定することによって、ホッピング伝導系の特にSWCNT界面の熱電物性機構を切り出して観測することができる予定である。
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