研究課題
2019年度の研究においては、第1に、2015年施行のコーポレートガバナンス・コードによる独立社外取締役増員の要請が企業価値に与える影響の分析を行った。これまでの研究では、制度に基づく独立社外取締役の増員が企業業績に影響を与えることは示されてきたが、正負どちらの影響を持つかは国ごとに異なっている。またどのようなメカニズムを通じて影響を与えているかは明らかとなっておらず、日本の取締役会改革の帰結を分析することは、今後の日本の取締役会に関わる制度の改訂に資すると考える。分析の結果、独立社外取締役の増員が企業価値に与える影響は、必ずしもプラスとは限らないことが判明した。また企業外部から新たに独立社外取締役を招聘して増員した場合と、既存の社外監査役を独立社外取締役として指名した場合で、企業価値に与える影響は異なることが判明した。こちらの分析については、論文としてまとめて書籍の形で刊行している。第2に、独立社外取締役増員の要請が、既存の取締役のアドバイス能力・モニタリング能力に与える影響に関する分析に着手している。具体的には、独立社外取締役増員の要請により、取締役の兼任が増えることや、取締役を通じたネットワークが拡大することに着目し、これらの現象が企業のCSR活動や投資の意思決定に与える影響の分析を試みる。こちらの研究については、現在データセットの整備を行っている段階であり、2020年度に引き続き研究を行う予定である。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画では、コーポレートガバナンス・コードが企業の投資行動に与える影響の分析を行う予定であり、実際に分析を行ったが、明確な結論を得られる分析とはならなかった。そのため計画を修正し、より直接的に、コーポレートガバナンス・コードが企業業績に与える影響を分析することとした。こちらの分析は年度内に完了し、最終的に書籍の形で刊行することとなった。以上、当初予定していた分析から軌道修正を行ったものの、当初の予定通り年度内にアウトプットを行うことができたため、おおむね順調に進展したと考えられる。
2020年度においては、当初の計画通りに、独立社外取締役増員の要請が既存の取締役のアドバイス能力・モニタリング能力に与える影響に関する分析を行う予定である。2019年度の研究同様、2020年度の研究でも「東洋経済データベース・役員データ」が必要となる。当該データの追加購入を行い、分析期間の拡充を図る。2020年度内の査読付き雑誌への投稿を最終目標とする。また、2021年度に行う予定である研究のデータベースの整備も適宜行っていく。
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