本年度に計画していた研究テーマとして、①女性向けアダルトビデオ(AV)視聴者のインタビュー調査可能性、②「男性向け」だったAVを「女性向け」に編集するアダルト動画サイトの実践、③ポルノ映像を構成する「視線」と性的主体化の関係の3つがあった。 ①先行研究ではいまだ、ポルノ視聴者の語りがどのような契機で、何を背景に産出されているのかを問う視座に欠けていた。そこで、日本の女性向けAVを視聴するファンが、いかに語ることを可能にしているのかを、コンテンツの特性と調査現場の相互行為に着目しながら明らかにした。 さらに、調査者という聞き手だけでなく、友人や配偶者などの非ファンと語る場合やファン同士で語る場合にいかに「ファンとしての自己宣言」を行うのかを分析した。こうして、ファンと非ファンの間の摩擦や、多様な語りのニーズを持つファン同士の緊張関係、そしてそれを乗り越えるためのファンの語りの戦略を明らかにした。 ②昨年度に行った学会報告を、査読論文として整理し投稿した。AVは、「作品」のうち一部の「シーン」のみ視聴しても問題がないというメディア的特性を持つ。サイトと利用者は、元々「男性向け」だった AV 作品から「女性向け」と感じるシーンを新たな見所として発見する読み直しを行えているが、他方で女性に対し差別的・抑圧的とされてきたシーンそのものを「女性向け」と逆用することには困難があった。この観察を通じ、J.バトラーの反ポルノ批判を支える「再意味づけ resignification」概念の可能性と限界を経験的に明らかにした。 ③は、研究課題①を充実させたために研究の時間を割くことができなかった。社会学は映像そのものをいかに分析できるかというさらに大きな問題と接続させながら、今後の課題としたい。
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