2021年度の研究では、前年度末から取り組み始めた男性市民の同性間性愛に関する課題について考察を深めた。まず前年度3月に行った口頭報告を基に、古代ギリシアにおける男性同性愛の研究動向をまとめ、自身の研究に必要と思われる課題を整理し問題提起とした論考を学術雑誌『新しい歴史学のために』299号の特集「身体へのまなざし」に発表した。報告者は古代と近現代のセクシュアリティとの対比に力点を置く先行研究のアプローチから距離を取り、古代において構築主義的な見方と本質主義的な見方のどちらが馴染み深いものだったかを問うことを試みた。この考察について2022年1月に名古屋大学ジェンダー・リサーチ・ライブラリー主催のセミナー&レクチャーシリーズ「西洋古代におけるジェンダー」にて口頭発表を行った。 民主政期アテナイにおける市民共同体の在り方とセクシュアリティとの関連を問う本研究課題に即しては、2021年7月の古代史研究会特別研究集会「古代ギリシア史研究の現在地―古典期・ヘレニズム期・帝政期の対話」において、ポリス成員権とジェンダー・セクシュアリティという観点から研究動向をまとめて口頭報告を行ったほか、民主政アテナイの政治文化と男性市民の同性間性愛に関する考察を進めた。2021年後半からの研究ではアテナイの男性同性愛と政治活動との関わりに目を向けた。在来のプロソポグラフィ研究の蓄積を利用しながら、史料中で同性愛関係に言及される人物たちの経歴に注目し、そのなかでも積極的な政治活動が知られる人物の活動時期ついて考察して、アテナイにおける政治家の資質の変化と関連付けて論じた。この考察をまとめ、2022年6月の日本西洋古典学会第72回大会にて口頭発表を行い、学術雑誌『西洋古典学研究』70号に論文として投稿した。
|