研究課題/領域番号 |
19J21170
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
淺野 良成 東京大学, 法学政治学研究科, 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
|
キーワード | 外交と世論 / 投票行動 / 外交投票 / メディアと政治 / 計量テキスト分析 / サーベイ実験 / 世論調査 |
研究実績の概要 |
(1)外交報道を分析して党派的な偏りを数量化する、(2)人々の接触情報が外交問題の重視度や態度に与える因果効果を推定する、(3)選挙前後に世論調査を実施し、外交政策の態度が投票行動に影響する過程を検討するといった研究を遂行した。 (1)では、安保法制に関わる全国紙や地方紙の社説を収集し、機械学習を応用したテキストマイニングの手法によって各紙のイデオロギー位置を推定した。研究成果は、学内外の研究者が実施する新聞の理想点推定に関わるプロジェクトと合流し、英文学術誌に共著論文として投稿した。更に、学外の研究者と共同して在京キー局による終戦報道のテキストデータも分析した。分析結果は、後述するサーベイ実験の成果と合わせて、英文学術誌に共著論文として投稿した。 (2)では、複数の学術的な世論調査データを用いて、回答者が接触した新聞が外交・安全保障問題の重視度や態度に与える効果を推定した。分析の結果、接触した新聞報道が与党への言及に偏っているほど、投票に際して外交や安全保障をより重視することを確認した。研究結果は、日本選挙学会の2019年度大会において口頭報告を行なった。また、接触するテレビ局をランダムに割り当てるサーベイ実験をインターネット調査に組み込み、その局の報道内容が政府の外交政策を擁護するか否かにより、メディアや政府に対する受け手の好感度が変化するかを検討した。実験は学外の研究者と共同して実施や分析を進め、分析結果は英語論文にまとめた。 (3)では、2019年参院選の直後にインターネット世論調査を実施した。本調査データに基づいて、選挙において外交政策を重視することは、有権者個人や日本にとって外交政策を重要視することとは意味合いが若干異なり、明確な意見保有を伴うことを確認した。この分析結果をまとめた論文を国内学術誌に投稿したところ、2020年4月に査読が完了し「掲載可」の判定を得た。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は(1)外交・安全保障に関わるメディア報道における党派的バイアスの数量化、(2)有権者が接触する情報環境と外交政策の認知過程、(3)選挙を通じた外交・安全保障問題に関する政策選好の反映の3つを検討することが柱となっている。2019年度はいずれの研究課題についても、学会報告や論文投稿を実現できた。一部の論文については既に「掲載可」の判定を頂いており、2019年度中に査読付きジャーナルに投稿するとした当初の目標は達成されたと言えよう。また、インターネット調査会社を通じて、複数回の世論調査を実施することにも成功しており、今後の研究を進める上でも意味のあるデータセットを構築できた。
|
今後の研究の推進方策 |
査読進行中の論文が複数本あるため、それらを早期に出版できるように修正作業などを進めていく。また、新たに以下の3つの研究に取り組んでいく。 第一に、これまで本研究は新聞やテレビといった謂わゆる「伝統的なメディア」に絞ってきたが、本年度はSNSやインターネットメディアも分析していく。有権者が接する情報環境の党派的な偏りに関しては、Twitterデータなどの収集に取り組み、新聞やテレビで用いた手法を応用して分析に付していく。また、有権者調査にインターネットメディアやSNSへの接触状況を聞く質問を組み込み、外交・安全保障問題に関する争点態度や知識、重視度といった変数との相関関係について、新聞やテレビと比較しながら検討する。 第二に、昨年度までは「有権者が外交政策をどのように認知しているか?」を大きなリサーチクエスチョンとしてきたが、本年度は「政治家は有権者に対して、外交政策についてどのようなメッセージを発しているか?」も検討する。すなわち、本研究はこれまで有権者の分析にとどまっていたが、有権者と政党・政治家の相互関係を外交・安全保障政策の文脈で議論することを目指す。 第三に、2019年度中に実施したサーベイ実験の一部について、追試実験を行う。2020年に入ってからの新型コロナウイルスの流行に伴う政治情勢の変化を受けて、昨年度までに得た実験結果がどれほどの一貫性を持つのか、または何が変化したのかを確認しておく必要がある。2019年と2020年の両方でほぼ同じ調査や実験を行うことで、より一般化可能性の高い理論を提示できるようにしたい。
|