研究実績の概要 |
今年度、私は単分子のダイナミックスを観測するための装置開発を行い、単分子と金属の結合が自発的に破断する過程における電子構造の時間分解計測を行うことに成功した。昨年度から開発していた単分子接合の電子構造の時間分解計測システムのハードウェアを完成させ、LabVIEWを用いて計測システムの自動制御を行うプログラムを開発した。最終的に、分子接合の抵抗値10メガオームにおける従来のIV計測の時間分解能(10msec)から100倍高い100μsecまで向上させることに成功した。 実験系として、単純な骨格をもつ1,4-benzenedithiol(BDT), 1,4-benzenediamine(BDA), benzenediisocyanide (BDI)分子と金の分子接合を扱い、金属と分子の結合様式ごとに結合破断の仕方の違いを観測した。電気伝導度計測によって、破断直前でBDT,BDA,BDI分子の電気伝導度と電子構造の時間変化を観測することに成功した。これによって、BDTの伝導度が破断直前で上昇する起源を電子構造変化から明らかにすることができた。さらに、共同研究先のAcademy of Sciences of the CzechのHector教授による計算シミュレーションによって、各分子の電子構造変化の違いは結合エネルギーの違いによって説明できることが分かった。本成果は現在,論文執筆中である。 さらに私はπ共役系のサイズの異なる分子の電子構造の評価も行った。これまで高伝導な共役系分子は、高いジュール熱によって不安定化してしまうため、低い時間分解能では電子構造を評価することは困難であった。さらにπ共役系分子は金属と相互作用する軌道を複数持つため、吸着構造が不明であったが、ピラジン基を導入し、IV計測を行うことでこれらの問題を解決することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2020年度は計画以上の研究成果の進展があった。2020年度は単分子接合の電気伝導度計測に対して電流電圧特性の計測装置を最適化する予定であった。研究実績にある通り、単分子接合の電子構造の時間分解計測システムのハードウェアを完成させ、LabVIEWを用いて計測システムの自動制御を行うプログラムを開発しただけでなく、実験系として、単純な骨格をもつ1,4-benzenedithiol(BDT), 1,4-benzenediamine(BDA), benzenediisocyanide (BDI)分子と金の分子接合を扱い、金属と分子の結合様式ごとに結合破断の仕方の違いを観測することにも成功した。これに加えて、π共役系のサイズの異なる分子の電子構造の評価も行った。これらの成果は,本研究課題の目標達成において重要な知見を与えるものであり,2021年初めにアメリカの化学会誌Journal of Physical Chemistry Cに掲載された。さらに、2021年度の日本物理学会第76回年次大会でもこの研究成果が評価され、学生優秀発表賞を受賞した。以上の点から、2020年度は計画以上の研究成果の進展があったと言える。
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