研究課題
橋梁、鉄道路線及び発電所などのインフラに多用される金属構造材料において、表面化学反応と応力との相乗効果によって材料の破壊が加速されることが問題となっているため、腐食環境下における金属材料の破壊機構を解明し、さらに高耐食性・高強度を有する革新的な材料の設計指針を構築することが強く求められている。そこで本研究では、超臨界水環境において鋼材の異方性に関わる自由表面の方位と結晶方位の変化が力学特性に与える影響を解明するため、反応力場分子動力学法を用いて、超臨界水環境において異なる表面と引張り方向における純鉄の破壊プロセスを検討した。その結果、(110)表面に関しては、<001>引張りモデルの降伏応力が最も低く、<110>引張りモデルの降伏応力・歪みが最も高いことを明らかにした。また、これら降伏現象の違いを解明するため、降伏する際の前駆現象を検討した。その結果、<001>の引張りでは、降伏前にbcc→fccの相転移が見られ、<110>の引っ張りでは、降伏前にbcc→hcp相転移が発生した。このように、異なる表面方位と結晶方位によって相転移パターンが変化し、降伏挙動に影響を与えるメカニズムを明らかにした。さらに、強度と延性のバランスに優れたTRIP(Transformation-induced plasticity)鋼材の性能を更に向上させるための変形・降伏のメカニズムを解明するために、bcc相とfcc相を同時に扱える分子動力学計算のための力場を開発した。開発した力場を用いて多結晶モデルの単軸引っ張りシミュレーションを行ったところ、TRIP効果によって20%以上の高い伸びが見られ、TRIP 鋼材の高い強度の発現機構の解明につながる結果を得た。
1: 当初の計画以上に進展している
超臨界水環境において鋼材の自由表面と異方性に関わる結晶方位の変化が力学特性に与える影響を解明するため、反応力場分子動力学法を用いて、超臨界水環境において異なる表面と引張り方向における純鉄の破壊プロセスを検討した。その結果、異なる表面方位と引張り方向によって相転移パターンが変化し、降伏挙動に影響を与えるメカニズムを明らかにした。さらに、強度と延性のバランスに優れたTRIP鋼材の性能を更に向上させるための変形・降伏のメカニズムを解明するために、bcc相とfcc相を同時に扱える分子動力学計算のための力場を開発した。開発した力場を用いて多結晶モデルの単軸引っ張りシミュレーションを行ったところ、TRIP 鋼材の高い強度の発現機構の解明につながるシミュレーションを遂行した。以上より、当初の計画以上に進展している。
本年度、異なる表面方位と結晶方位が純鉄の降伏メカニズムに与える影響を明らかにした。また、bcc相とfcc相を同時に扱える反応力場を開発し、TRIP 鋼材の高い強度の発現機構の解明につながるシミュレーションを遂行した。次年度は、組織構造が鉄鋼材料の力学特性に与える影響を明らかにするため、粒界・複相といった組織構造が含んだ大規模シミュレーションを行う。また、得られたシミュレーション結果を基に、腐食環境・材料の組織構造・温度・圧力・引張り方向を入力情報として、鉄鋼材料の強度・伸びといった材料破壊特性を出力値とする人工ニューラルネットワークを構築する。
すべて 2021 2020
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (2件)
Applied Surface Science
巻: 537 ページ: 148035~148035
10.1016/j.apsusc.2020.148035
ACS Applied Nano Materials
巻: 3 ページ: 7297-7304
10.1021/acsanm.0c01775