本研究では、試験管内で合成した人工RNAを用いて細胞内のマーカー分子を検出する「RNAスイッチ」技術を用いて、新たな造血幹細胞選別手法の開発を試みた。 マイクロRNA (miRNA) は、遺伝子の転写後発現制御を担う短いnon-coding RNAである。miRNAは細胞種ごとに特徴的な発現パターンを示すため、細胞種のマーカーとなることが明らかになってきた。そこで本研究ではmiRNAに着目し、miRNAの活性を可視化・定量可能なRNAスイッチを用いた造血幹細胞の細分化を試みた。 これまでの研究から、生体外で増幅したマウス骨髄由来造血幹細胞の中には、miRNAによってレポーターの発現が強く抑制されるmiRNA活性の高い細胞と、レポーターの発現が抑制されないmiRNA活性のない (低い) 細胞が混在していることが分かっていた。本年度は、miRNA活性の高い細胞と低い細胞の性質を評価するために、放射線照射したマウスへの移植アッセイを実施した。放射線照射等により造血機能を破壊した宿主マウスに解析対象のドナー細胞を移植し、ドナー細胞由来の血球細胞が末梢血中に産生されているかどうかを移植後数ヶ月にわたって解析することにより、ドナー細胞が多分化能と自己複製能を備えた造血幹細胞であったかどうかを判定できる。セルソーターを用いてmiRNA活性の高い細胞と低い細胞を分取し、それぞれ宿主マウスへ移植したところ、miRNA活性の高い細胞を移植したマウスにおける末梢血キメリズム (末梢血中のドナー由来血球細胞の割合) は、活性が低い細胞を移植したマウスに比べて高かった。この結果から、多分化能と自己複製能を備えた造血幹細胞は、miRNA活性の低い細胞に比べ、miRNA活性の高い細胞内により豊富に含まれていたことが示唆された。
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