研究課題/領域番号 |
19J21202
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
日浦 史隆 九州大学, 歯学府, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | 骨代謝 / 破骨細胞 / 骨吸収 |
研究実績の概要 |
破骨細胞は骨吸収を司る多核巨細胞であり、インテグリンを介して骨基質を認識すると細胞内でc-Srcが活性化される。c-Srcの活性化は、波状縁の形成を誘導し、吸収窩に酸とタンパク質分解酵素を分泌し、ミネラルの脱灰とコラーゲンの分解を行う。我々はこれまでにc-Srcの下流分子であるp130Casを破骨細胞特異的に欠損するマウス(OC-p130CasKO)がc-Src欠損マウス(c-Src-/-)同様、破骨細胞の機能不全による大理石骨病を呈することを報告した。このことは破骨細胞による骨吸収にc-Src/p130Cas axisが重要な役割を担っていることを示唆する。本研究の目的は、c-Src/p130Cas axisの下流で骨吸収を制御する新たな分子基盤を明らかにすることである。 c-Src-/-並びにOC-p130CasKO由来破骨細胞に共通して発現量が低下する分子として、まずKif1cに着目した。、Kif1cはc-Srcやp130Cas同様に破骨細胞分化に伴って発現が上昇し、核周囲と細胞辺縁に局在した。 破骨細胞前駆細胞でKif1cをノックダウンすると、多核でアクチンリングを持つ破骨細胞様細胞の数が減少した。OC-p130CasKO由来破骨細胞に、Kif1cを過剰発現するとアクチンリングと吸収窩形成の部分的な回復が見られたが、c-Src-/-由来の破骨細胞では機能回復は見られなかった。以上の結果から、c-Src/p130Cas axisの下流で破骨細胞の機能調節を行う別の分子の存在が示唆された。 これまで、c-Src-/-由来の脾臓細胞を用いた破骨細胞分化誘導が安定せず、高純度の破骨細胞由来のRNAの調製に時間を要したが、漸く純度の高い破骨細胞を分化誘導することに成功した。OC-p130CascKO由来破骨細胞の高純度のRNAも合わせて網羅的解析により候補分子群を選別し、それらの骨吸収への関与を検証する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
31年度は、c-Src欠損またはOC-p130CasKOマウス脾臓由来の破骨細胞から高純度のRNAを調製し、c-Src/p130Cas axisの下流分子の網羅的解析し、解析結果から破骨細胞でより発現の高い分子をリスト化し、アデノウイルスやsiRNAを用いて分子の同定と機能解析を進めていく予定であった。しかし、c-Src欠損マウス由来の脾臓細胞を用いた破骨細胞分化誘導が安定せず、高純度の破骨細胞由来のRNAの調製に時間を要した。現在c-Src欠損マウス由来の脾臓細胞から純度の高い破骨細胞を分化誘導することに成功した。さらにOC-p130CasKO脾臓細胞から純度の高い破骨細胞を分化誘導することを行っている。OC-p130CascKOマウス由来の破骨細胞から高純度のRNAを準備出来次第、網羅的解析を行う予定である。 またp130Cas下流分子としてKif1cに着目した。Kif1cは破骨細胞分化に伴って発現が上昇し、p130Casやc-Srcと同様の挙動を示した。さらに、野生型破骨細胞前駆細胞でKif1cをノックダウンすると、OC-p130CasKOマウス由来破骨細胞に類似した、アクチンリングを形成できない小型の破骨細胞が誘導された。一方、OC-p130CasKOマウスにKif1cを過剰発現すると、アクチンリング形成と吸収窩形成が一部回復した。しかし、c-Src欠損マウス由来の破骨細胞にKif1cを過剰発現してもアクチンリング形成と吸収窩形成は回復しなかった。以上の結果より、Kif1cはp130Casの下流分子として骨吸収に関与し、c-Srcの下流でp130Casと別の分子経路に分かれる可能性が示唆された。本研究内容は第42回日本分子生物学会(福岡)で発表し、論文(Kobayakawa M et al. Cell Biochem Func. 2020;38(3):300-308)として発表した。その他、関連論文(共著)1報と総説1報を発表した。
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今後の研究の推進方策 |
①野生型およびc-Src欠損またはOC-p130CasKOマウス由来の破骨細胞との遺伝子発現プロファイルの比較 野生型、c-Src欠損またはOC-p130CasKO各々のマウス由来の破骨細胞から全RNAを抽出し、破骨細胞の遺伝子発現プロファイルをRNA Seq解析する。c-Src欠損マウス由来の破骨細胞に共通して発現量が1/2 以下に減少している分子群の中から破骨細胞のアクチンの再構成に関連する分子群をデータ情報と照らし合わせて選別する。 ②候補分子群の絞り込みとクローニング Real-time PCR法で選別した分子群の発現量の違いを確認する。さらに選別した分子群の組織分布を解析し、破骨細胞でより発現の高い分子をリスト化する。候補分子群の中で、組み換えタンパク質等の試薬として存在する物は購入し、存在しない物は野生型破骨細胞のcDNAを用いて候補遺伝子をクローニングし、レンチウイルス発現ベクターを構築する。 ③候補分子の骨吸収への関与の検証 構築したレンチウィルスベクターを用いて、候補分子群をc-Src-/-またはOC-p130CasKO由来の破骨細胞に導入し、骨吸収の回復実験、野生型マウス由来破骨細胞に候補分子群に対するsiRNA等を導入して機能喪失実験を行い、骨吸収制御分子の同定をする。
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