今年度は、1.ユビキチン特異的プロテアーゼ(USP)2が視床下部腹内側核(VMH)で交感神経を活性化する分子機構の解明、2. 神経選択的Usp2ノックアウト(KO)マウスの表現型解析、の2点について実行した。
1.VMHのUSP2の阻害が血糖上昇を引き起こす分子機構を調べた。USP2阻害剤であるML364の処置はVMHのAMP-activated protein kinase(AMPK)のリン酸化を促進した。次に、USP2阻害によるAMPKのリン酸化が交感神経を活性化するかを調べた。AMPK阻害剤をML364投与前に処置すると、血清ノルエピネフリンや血糖値の上昇が抑制された。 USP2の阻害によるAMPKのリン酸化のメカニズムとして活性酸素種(ROS)に注目した。ROSの蓄積はミトコンドリアの機能不全を引き起こし、AMPKのリン酸化を促進する。予想通り、ML364の投与によりROSの蓄積が認められた。そこでROS除去剤をVMHに前処理すると、ML364投与後のVMHのAMPKのリン酸化や血清ノルエピネフリン、血糖値の上昇が抑制された。以上より、VMHのUSP2はROSの蓄積を防ぐことでAMPK の活性化を抑え、結果的に交感神経を介した血糖値の増加にブレーキをかけることが明らかになった。 2.タモキシフェン誘導により神経細胞のUsp2が欠損する神経選択的Usp2KOマウスを用いてエネルギー代謝への影響を調べた。野生型マウスと比べて、神経選択的Usp2KOマウスの通常・絶食時、インスリン投与後の血糖値に変化はなかった。その理由として、視床下部の他の神経核でのUsp2の欠損が、VMHのUsp2KOの効果を打ち消した可能性がある。今後は神経核特異的プロモーターを用いたUsp2コンディショナルKOマウスを用いることで、遺伝学的手法と薬理学的手法を用いた複合的な評価が望まれる。
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