研究課題/領域番号 |
19J21221
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
福田 卓海 東京大学, 薬学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | 全合成 / ラジカル反応 / 高酸化度天然物 / 有機合成化学 |
研究実績の概要 |
本研究課題の目的は、オイオニミノールに代表される多数のヒドロキシ基を有する高酸化度天然物の収束的合成戦略の確立することである。ヒドロキシ基は、水素結合ドナーおよびアクセプターの双方の役割を担うため、ポリヒドロキシ化された炭素鎖は、タンパク質や核酸などの生体高分子との多点相互作用を可能とする。それゆえ、重要な生物活性を示す多数の天然二次代謝産物には、高度にヒドロキシ化された炭素鎖が部分構造として多く見られる。しかし、現代の精密有機合成化学をもってしても、高酸化度天然物の全合成による自在供給は、未だ困難な課題である。多くの酸素官能基が存在すると、骨格構築に利用できる炭素-炭素(C-C)結合形成反応の種類が、大きく制限されることが、その主たる要因である。そこで、私はラジカル反応の持つ極性官能基に対する高い官能基許容性に着目し、オイオニミノールの高酸化度A,B環を2回の分子内ラジカル付加反応で一挙に構築する計画を立案した。本計画が実現すれば、A,B環への立体選択的な酸素官能基導入工程を最小化した効率的なオイオニミノールの全合成が可能になる。今年度は本計画に基づき、(1)モデル基質を用いた分子内ラジカル付加反応によるA環構築および(2)鍵反応の基質となるラジカル前駆体の合成を達成した。本研究成果は、生物活性天然物にとどまらず、機能性有機分子を含めた様々な分子の合成に適用できるため、精密有機合成化学を刷新する革新的な方法論となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度、私は、ジヒドロ-β-アガロフラン類の1つであるオイオニミノールの全合成研究に取り組んだ。昨年度、ジオスピロジンノナアセテートおよびヒキジマイシンの全合成に利用した、ラジカル反応の持つ高い極性官能基許容性に着目し、オイオニミノールの高酸化度炭素骨格を2回の分子内ラジカル付加反応で一挙に構築する計画を立案した。まず、安価な糖誘導体をC1-C5フラグメントとして、4工程の変換でC4位へのMe基導入と酸化度調節を行った。続いて、8工程の変換でA環構築のモデル化合物となるラジカル前駆体を合成した。この基質を光触媒を用いる炭素ラジカル発生条件に付すと、分子内ラジカル付加反応が円滑に進行し、所望の立体化学を有する環化体が高収率で得られることを見出した。さらに、市販の植物原料誘導体から4工程で導かれるC6-C9フラグメントを、先のC1-C5フラグメントと連結し、炭素鎖を伸長した。その後、分岐炭素鎖の導入と保護基の変換、酸化度調節を経て、鍵となるラジカル前駆体を合成した。現在、本合成中間体からの分子内ラジカル付加反応によるA,B環同時構築を検討中である。このように、私はモデル実験において分子内ラジカル付加反応によるA環構築を実現した。さらに、市販化合物から最長16工程で重要中間体であるラジカル前駆体の合成経路を確立した。これは、今後のA,B環構築を十分検討できる経路であり、期待通りの研究成果が得られたと言える。
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今後の研究の推進方策 |
まず、今年度合成法を確立した鍵反応基質からの分子内ラジカル付加反応によるA,B環同時構築を実現する。続いて、C環構築と酸化度調節を経てオイオニミノールを全合成する。その後、アガロフラン類の中でも有用な生物活性を持つ(1)含ピリジンマクロ環アガロフラン類の全合成法の確立を行ない、(2)高酸化度アガロフラン類の構造を基盤としたより強力な活性を持つ新規医薬品の創製を目指す。
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