研究課題/領域番号 |
19J21244
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
森長 大貴 早稲田大学, 理工学術院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | ニュートリノ振動 / 超新星 / 線形解析 |
研究実績の概要 |
重力崩壊型超新星爆発は、大質量星が重力崩壊後に形成する原始中性子星から放出されるニュートリノが、周囲の物質を加熱することで引き起こされるというのが有力な説である。本研究課題は、ニュートリノ振動が超新星においてどのように発生するのかを明らかにすることで、超新星爆発の発生機構及びニュートリノ観測への影響を解明することを目指すものである。 当該年度においては、超新星シミュレーションから得られたニュートリノ分布関数のデータに対して線形解析を行うことによって、原始中性子星内部や衝撃波の上流においては自己相互作用によってニュートリノ振動が誘起されうることを示した。特に、後者はあらゆる超新星モデルに対して普遍的に発生する現象であり、不安定モードの群速度を求めることによって地球上で観測されるニュートリノシグナルに影響を及ぼしうることも示した。さらにキックを経験する超新星モデルにおいても同様の解析を行うことで、このような衝撃波上流におけるニュートリノ振動は、キックの方向に応じて起こる方向と起こらない方向が分離して現れることも示した。 また、ニュートリノ振動のように場によって記述される現象の線形解析の理論は、1次元空間の場合に対しては古くから確立されていたにもかかわらず、それより高次元の空間においては数値計算が困難であり実用性の乏しい理論しか存在しなかった。この問題に対して代数幾何学及び代数的位相幾何学によるアプローチを用いて取り組み、任意の有限次元空間の任意の分散関係に対して実用可能な数学的に厳密な定式化をすることに成功した。 以上の研究成果は計5編の学術論文(内 Physical Review D 2編、Physical Review Research 2 編、The Astrophysical Journal 1編)及び3つの国内外の学会にて発表している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の最終目標を達成するための最初のステップは、線形解析を用いることで超新星においてニュートリノ振動がどのような条件でどのように発生するのかを明らかにすることであった。当該年度においては、ニュートリノ振動が衝撃波上流および原始中性子星内部で発生する可能性を実際に線形解析を用いることで示すことができた。また当初の研究計画にはなかったことであるが、場によって記述される系に対する線形解析の新しい手法を確立することにも成功した。この研究成果は超新星やニュートリノ振動の問題に留まらず、より一般の線形解析の理論そのものの発展に貢献できたと考える。
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今後の研究の推進方策 |
これまでは線形解析を用いることで超新星におけるニュートリノ振動の発生条件等を明らかにしてきた。線形解析に限ってもまだ解決すべき課題は残されており、まずはその解決を目指す。例えばこれまで求めてきた線形成長率に加えて初期の摂動の大きさも考慮することで初めて、摂動が非線形領域まで成長するために必要な時間的・空間的なスケールを求めることができる。線形解析で示した不安定性が、本当に超新星爆発のメカニズムやそのニュートリノ観測に影響を及ぼすほど十分に成長できるのかを明らかにするためにはこのような解析が必要である。また、最終的には非線形発展まで計算を行う必要があり、これも今後の研究課題の一つである。超新星におけるニュートリノ振動の発展方程式は、数値計算で解こうにも非常に計算コストの大きい問題となっているため、正しい結果を得るためには工夫が必要である。従ってこの問題に取り組むための効率的な計算手法を開発することも優先的に解決すべき課題である。
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