研究課題/領域番号 |
19J21253
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
池渕 徹也 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | 反強磁性体 / スピン流 |
研究実績の概要 |
スピン流をデバイス開発に応用することが現在盛んに研究されているが、大きな問題となっていることはスピン散逸によって情報を長距離に伝達ができないということである。従って、スピン散逸の少ない材料の開発が急務となっている。理論的研究によって絶縁性反強磁性体がスピン超流動と呼ばれるスピン散逸の少ない状態を取ることが既に知られているが、外部磁場に応答しづらいという反強磁性体特有の性質によって実験的には未だ観測されていない。先行研究では、反強磁性体にスピン流を注入し、反強磁性体中のスピン流に関する物理量を測定することに成功した。よって、本研究ではスピン超流動の観測を目指す。それによってジュール損の少ないデバイス開発に対して重要な提案をする。 2020年度はスピン超流動を調査する段階で、磁性体と常磁性体界面のスピン流変換効率に結晶配向依存性があることが明らかになった。この結果は計画当初は予想していなかった現象であり、基礎と応用の両面的にも重要な結果であることが示唆された。従って、当年度はこの現象を理解するための実験を行った。 2021年度からは実際にスピン超流動の観測を目指す。スピン超流動は通常のスピン散逸とはスピン流の距離に対する減衰の方法が異なる。そのため、伝搬距離に応じてスピン流を検出する機構が必要となる。これは従来の実験で行ってきた方法では測定できないものであるため、測定を行うための新たな方法を模索し、観測に向けて実験を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度、結晶配向依存性の重要性に着目し、非磁性重金属である白金のスピン流生成効率が結晶配向に依存していることを二通りの実験手法によって明らかにした。さらに、この研究を推し進めるために温度制御が可能な高周波測定装置を開発した。現在、白金のスピン流生成効率の温度依存性を調査中である。また、外部の実験施設を利用した実験にも参加し、磁気コンプトン効果を利用した実験においてフェリ磁性体の角運動量補償温度を見積もる新たな手法を見出した。さらに昨年度、カイラル反強磁性体物質Mn3Irの薄膜材料開発に成功し、カイラル反強磁性体のスピン構造とスピン流の相互作用を調査した実験も共同研究者と共に行った。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究計画として、主に2つを挙げる。 1つ目に、今年度に実施した研究をまとめ論文として発表することである。磁性体と非磁性体との界面で生じるスピン流変換効率が結晶配向で異なることは、デバイス開発の点において、同じ材料を用いても異なる性能を示すことが示唆されるため、重要な結果となる。 2つ目に、非局所測定法によるスピン超流動の測定を行うことである。これまでに述べたように非局所測定法により面内等方的な絶縁性反強磁性体を用いてスピン流の伝搬距離依存性を調査する。これを先行の理論研究による表式によって解析し、スピン超流動の同定を行う。 これらに加えて、積極的に国際会議および国内学会に参加し、発表や物性物理の最先端の情報収集を行う予定である。
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