研究課題/領域番号 |
19J21282
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
吉田 稜 名古屋大学, 生命農学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | アーキア / 細胞膜 / イソプレノイド / メバロン酸経路 / 大腸菌 / 極限環境微生物 / 代謝工学 / 合成生物学 |
研究実績の概要 |
超好熱性アーキア膜脂質の一つであるC25アーキア膜脂質の大腸菌での生産量の向上に向けて、同脂質のイソプレノイド部の生合成前駆体合成経路の導入に引き続き取り組んだ。まずは、昨年度構築した、アーキア型メバロン酸経路の発現プラスミドを非還元型C25アーキア膜脂質生産大腸菌株に導入した。しかし、同脂質の生産量の大幅な向上には至らなかった。そこで、主に酵母由来、または乳酸菌由来のメバロン酸経路遺伝子を含むプラスミドを入手し、それぞれを 非還元型C25 アーキア膜脂質生産大腸菌株に導入した。同株を、細胞に取り込まれた後にメバロン酸へと変換されるメバロノラクトンを添加した培地で培養することで、現時点で約10倍、同脂質の合成量向上に成功している。 並行して、大腸菌への異種遺伝子発現の負荷を軽減することを目的に、プレノール・イソプレノールからのイソプレノイド生合成前駆体合成経路の構築に取り組んだ。まず、大腸菌由来のプレノールキナーゼ、及びメタン生成菌由来のイソペンテニルリン酸キナーゼを発現させるプラスミドを構築した。次に、簡便に大腸菌でのイソプレノイド生産能を検証するため、赤色色素のリコペン生産経路発現プラスミドとともに、同プラスミドを大腸菌に導入した。プレノール・イソプレノール添加培地中で同株を培養することで、最大で約67倍、リコペンの生産量を向上させることに成功した。これにより、たった2種類の遺伝子を導入するだけで、大腸菌のイソプレノイド生産能を大幅に増強させることが可能であると分かった。この結果を受け、これら2つの遺伝子を非還元型C25アーキア膜脂質合成プラスミドに追加し、大腸菌に導入した。プレノールとイソプレノールの培地への添加量の検討により、現時点で同脂質の合成量を最大で約10倍向上させることに成功している。今後はC25アーキア膜脂質の生産が与える大腸菌への影響を観察していきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アーキア型メバロン酸経路を非還元型C25アーキア膜脂質合成大腸菌株に導入し、好気条件で培養したが、同脂質の生産量の大幅な向上には至らなかった。これは、好気条件においてアーキア型メバロン酸経路の活性が減少することが原因と思われた。そこで、好気条件で特に活性が高い酵母由来、もしくは乳酸菌由来のメバロン酸経路を代わりに導入した。細胞内に取り込まれてメバロン酸へと変換される、メバロノラクトンを添加した培地で好気培養することで、非還元型C25アーキア膜脂質の合成量が最大で約10倍向上した。 さらに、プレノールキナーゼ及び、イソペンテニルリン酸キナーゼの大腸菌への導入により、プレノール・イソプレノール添加培地でリコペン生産量を最大67倍向上させることに成功した。これにより、たった2種類の遺伝子導入により大幅なイソプレノイド生産の向上が可能になり、メバロン酸経路の導入と比較して、異種遺伝子発現によってかかる負荷を大幅に減らすことが可能になった。また、この2つの遺伝子をC25アーキア膜脂質合成プラスミドに追加し、プレノール・イソプレノール添加培地で同株を好気培養することで、C25アーキア膜脂質の生産を最大で約10倍向上させることにも成功している。 以上のように、イソプレノイド前駆体合成経路の異種発現によって、大腸菌でのC25アーキア膜脂質の合成量の大幅な向上に成功した。今後は、C25アーキア膜脂質の生産によって、有機溶媒耐性の向上といった大腸菌への影響が見られることを期待したい。
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今後の研究の推進方策 |
酵母由来、もしくは乳酸菌由来のメバロン酸経路の導入によって、非還元型C25アーキア膜脂質の合成量を約10倍向上させることに成功した。またプレノールキナーゼ、及びイソペンテニルリン酸キナーゼの導入によっても同脂質の合成量を約10倍向上させることに成功している。そこで今後は、C25アーキア膜脂質の生産がもたらす大腸菌への影響を検証する。具体的には、培養速度、細胞の形態、細胞膜の物理的強度や透過性などへの影響を観察する。またC25アーキア膜脂質生産株を応用した高効率のバイオ燃料や疎水性化成品などの有用物質生産システムの構築において重要な、有機溶媒耐性への影響についても検証する。もし、C25アーキア膜脂質の生産によって有機溶媒への耐性が向上した場合、脂肪酸エチルエステル,ブタノールといった次世代バイオ燃料を同株で生産させ、同株が疎水性有用物質生産において有利であるかを検証する。 もしC25アーキア膜脂質の大腸菌での合成量が依然として不十分で、大腸菌への影響が確認できなかった場合は、誘導剤や、添加剤の濃度の検討、培養条件の検討などを通して、さらなる同脂質の合成量の向上に取り組む。またメバロン酸経路とプレノールキナーゼ、及びイソペンテニルリン酸キナーゼを合わせて導入し、さらなる同脂質の合成量の向上が可能かを検証する。 また、既に大腸菌での合成に成功しているC30イソプレノイド鎖を有する非天然型アーキア膜脂質の大腸菌での合成量向上に取り組み、同脂質の生産が大腸菌に与える影響を検証する。
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